第44話 帰省
さて、門をくぐり、街道を進み続け、その道すがらが獣道に変わる頃、黒いフードを被った巨躯が一人佇んでいる。
「ご苦労だったね、ライン。」
リッケルトの言葉にお辞儀をする黒いフード。
「それで、首尾は?」
「上々よ。」
黒いフードの
「今しばらくの外圧はないものと…。
また、街の行く末を
後は
「要人の護衛おつかれさま。」
「Your Majesty!」
黒いフードが片膝を付いて王侯への礼を示す。
「それで、となりのダークエルフは?」
「ジョルジュと申します。
ゴーレム使いです。」
「ハインケルと申します。
以後、お見知りおき下さい。」
黒いフードが被りを取るとガイコツが姿を表す。
ジョーは驚くが、意思疎通出来ることに安心する。
「そうだ、ライン。
例の剣二振りをジョーに渡してくれ。」
「了解しました。」
フードの中から二振りの黒刀を取り出しジョーに渡すライン。
「こ、これは…。」
「先日討伐したボスが持っていたエモノです。
呪いの類は掛かっていませんので、心行くまで使って下さいね。」
ジョーの体格に対して明らかに不釣り合いな二振りの黒刀。
「ありがたく、使わせてもらいます。」
受け取った曲刀を背負い、ジョーは頭を下げた。
「さて、行きましょうか、助さん、格さん。」
「ヘイ、ご隠居。」
リッケルトの掛け声に、三人が口を揃える。
全員が爆笑しながら旅が始まる。
ラインとジョーが散策の旅に出ていると、見覚えのある街が二人の視界に入ってくる。
「おやぁ、この街は…。
十年ぶりかな?」
「…そうですねぇ。」
ラインの陽気な声に、沈み気味の返事を返すジョー。
「元気がないねぇ、ジョー。」
「それは…。」
二人が門に近づくと、衛兵が歩み寄り、色々と質問してくる。
「ようこそ、我が街へ。これといった特産品は有りませんが、ゆっくりと旅の疲れを癒やして下さい。」
隠蔽魔法で、顔をすり替えているラインとジョー。
衛兵はにこやかに挨拶すると、二人の入門を許可した。
二人はすぐに市街の
そして、二人の前に広がるマーケットは大変賑やかだった。
店員、買い物客などを眺めていると、ダークエルフが幾人か紛れ込んでいる。
「奴隷では無いようですね。」
「…。すまないが、里へ寄っても…。」
「構いませんよ。」
ラインの許可を取り、故郷に帰るジョー。
もっとも、そこにあるのは墓標しかないのだが…。
さて、ジョーが
ゆっくりと膝をかがめ、ワインのボトルを供え、しばし手を合わせるジョー。
ゆっくりと立ち上がり、振り返るジョー。
そこには夫婦とおぼしきダークエルフが花を携え立っていた。
二人に頭を下げ立ち去ろうとするジョー。
「あの…。」
女性に呼び止められ、立ち止まるジョー。
「家族を弔っていただき、ありがとうございます。」
会釈するジョー。
「あの、よろしければ、貴方の事を少し伺いたいのですが…。」
「構いませんよ。」
三十分程話す三人。
隠蔽の魔法で人種の姿になっているジョー。
夫婦はダークエルフの里を訪れた人種にかなりの関心を持っており、根掘り葉掘りの質問攻め。
閉口してしまうジョーだったが、なぜ、彼らが
「ところで、君たちはこの辺りの出身なのかい?」
「はい、この墓標がある一体が私たちの生まれ故郷でした。
今から十年ほど前の事件で一族全員が殺害されてしまったんです。
幸い、私たちは通りすがりのリッチに助けられ、事無きを得たのです。」
男性がジョーに答える。
「その後、リッチの紹介されるままに、近隣の人里で暮らすことになり、現在に至っています。」
女性が笑顔で話を続ける。
「そうでしたか。」
ジョーも笑顔になる。
「どうか、健やかに。
それと、子宝に恵まれるように…な。」
赤面する夫婦に会釈をし立ち去るジョー。
その後姿はいつしか隠蔽魔法も解け、ダークエルフの
「墓参りはいかがでしたか?」
愛想よく問いかけるライン。
「お陰様で、いい墓参りになりましたよ。」
酒場のカウンタに腰掛け、エールを煽るジョー。
「久しぶりに、今夜はいい夢を見れそうです。」
「それは何より。」
そう言って、ラインもエールを口にする。
酒場のあちこちで悲喜こもごもの賑わいが交錯する中、このカウンタ一角だけは落ち着いた、静かな時間に包まれている。
勇者を喰らう者 たんぜべ なた。 @nabedon2022
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