正義なき戦い

第4話 衝突

「大将っ!

 勇者を先頭に、王国軍が動き出したぜ。」

 後ろ手に髪を束ねたダークエルフが両肩に不釣り合いな黒刀二本を担ぎ、正面を眺めている。

 彼の隣には、黒いフードを被り、異様なオーラを纏った大きな人物も立っている。


「リック、右翼の丘からも歩兵が突っ込み始めたねぇ。」

 巨大なワニガメに乗った黒騎士の後ろで、右側の丘を眺めているインディアン。


「予定通りですね。」

 中央で腕を組み、仁王立ちする、詰襟の長ランを羽織った少年リック


「いつも通りです。

 僕は、正面の勇者貴下の王国軍の相手をします。

 ライン、露払いのゴーレム部隊の展開をお願いします。」


「お任せあれ。」

 一礼する黒いフード。

 フードの中は、身長が二メートル近い巨躯のガイコツだった。

 そのガイコツがしゃなりしゃなりと歩き始め、黒刀を持ったダークエルフが後に続く。


「では、我らは右翼つぶしに‥。」

 黒騎士を乗せて、ゆっくりと動き出すワニガメ。


「じゃ、僕は左翼のゴミ掃除を…。」

 カメの背を降り、左側の林に向かって歩き出すインディアン。


「みなさん、無駄な殺生は控えて下さい。

 但し、どうしようもなく好戦的な方には、丁重なオ・モ・テ・ナ・シをお願いします。」

 リックの言葉に、移動しながら、左手を掲げ前進して行く四人。


「それじゃ、僕たちも行きましょう。」

 言葉に応え、リックの影から出現する漆黒のグレートソード。

 刀身に刻まれた黄金のクサビ文字 握り手と刀身の抑え部分に瞳のように輝く深紅のルビー。

 リックが、その剣を手にした瞬間にバリトンが響く


次元門ゲート

 声とともにリックの姿が消える。


勇者ソロモン殿、敵が動き始めました。」

「気をつけて下さい!

 どこから飛び出すかわかりません!!」


 中央突破に動いている、ソロモンと王国軍。

 程なくして彼らの眼前には、スケルトンやソンビと思われる死霊の団体が見えてくる。

 その後方に控えるのは、黒いフードをかぶったガイコツ。


「神聖術士を展開して下さい。

 死霊滅殺ターンアンデットで撃退をお願いします。」


 勇者の一言で、後衛に控えていた神聖術士の一団が正面に展開し、魔法詠唱を始める。

「ターンアンデットっ!!」


 ほとばしる閃光。

 大轟音とともに土煙が巻き上がる。


「おおやったぞぉっ!」

 兵士達から歓声が上がるが、それは程なくして悲鳴に変わる。


「そ…そんな…。」

 兵士達が動揺する。

 無理もない、滅殺したはずのスケルトンやゾンビが押し寄せてきたのだ。

 神聖術士たちは、防戦を試みるが、圧倒的な物量に、成す術もなく地に倒され、兵士達も襲われ始める。


「ほっほっほ。

 この手には誰もが、よく引っかかってくれますわね。」

「お前の姿を見たら、ああなるわな。」

 口元に手を寄せ、上品に笑う仕草をするガイコツと、半目開きで呆れ返るダークエルフ。


「ライン、神聖術士は大事にしろよ。

 利用価値有るんだからな。」

 ダークエルフがツッコミを入れる。


「わかってるわよ。

 もう結界内に保護してるから、安心して潰してあそんできなさい、ジョー。」

 ガイコツラインは、ダークエルフジョーを煙たがるように、手を振る。


「あいよ。」

 ジョーは、二刀を両肩に乗せ走りはじめる。


「右側面から潰しておけば、あの方もお喜びになるわ。」

 ラインが両手を顔にあて、ジョーに叫んでみる。


「言うまでもない。」

 ジョーは、二刀を両サイドに展開し、敵本陣右翼より、切込みに入る。

 ラインは立ち止まり、平原の状態を確認する。


「そろそろ、あの方が登場ね。

 舞台準備をして、華やかに迎えてあげなくちゃ。」

 そう言って、雷撃呪文を唱え始めるライン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る