第13話 監獄 ~ソフィア視点~

 ハインケルと名乗ったスケルトンに従い、私とシャルは収監牢の通路を歩いている。

 牢内には、人々が幽閉されている。

 見覚えのある人々、見覚えのない人々…彼らの視線を感じながら、ただ先を進む。


 とある牢の前でハインケルは立ち止まる。

「オリヴィアという女性はどなたかな?」

 女性の名前に聞き覚えがある…確か、シャルの親友で…。

 そう考えると、くだんの女性が牢の前に立つ姿に、私はビックリする。


「貴殿の探されていた御仁はこの方でよろしかったかな?」

 ハインケルは、私達に視線を送り、オリヴィアもこちらに視線を向ける。


「シャーロット様っ!」

 そう叫ぶと、オリヴィアは牢内で平伏した。


「アリィ。

 立って下さい。」

 シャルがオリヴィアに立ち上がるように促している。


「それで、彼女はどのようなご関係ですか?」

 ハインケルが問い正すと、二人は黙り込んでしまう。


「彼女は、シャーロット殿下の従者です。」

 咄嗟のデマカセだった。

 しかし、彼女が『勇者の供回り』となると、ハインケルも警戒するだろう。

 私達を連行している状況で、無用な不確定要素を提示する必要はない。


 アリィはおもむろに立ち上がると、シャルに対しカーテシーを行う。

「了解した。

 オリヴィア殿にもご同行願おう。」


 さて、オリヴィアを牢から出そうとすると、一人の女騎士がハインケルの前に膝をかがめた。

「過日は、友の傷を手当いただき感謝する。

 お礼が遅れた事を、申し訳なく思う。」


 ハインケルは女騎士の頭に按手した。

「それは、貴女が望んだこと。

 たまたま私に力があったからお貸ししたまでのこと。

 さぁ、立ち上がって、彼女達の戻りを待つのです。」

 そう言って按手を解き、私達の方に視線を送るハインケル。


 女騎士も私達の方に目を向ける。

「シャーロット殿下っ!」

 女騎士の声に、牢内の全員が入り口に駆け寄ってくる。

 他の牢でも、同じように人々が入り口に駆け寄ってきた。

 誰もが口々にシャルの名を呼び、元気な姿に安堵するとともに、これから起こるであろう事態に不安の声も漏れ聞こえてくる。


「心配いりませんっ!

 私には、腹心の騎士、ソフィア・ド・トリトンと、頼りになる侍女で、勇者パーティーのオリヴィアも居ます。」

 シャルは盛大に言い放ち、場の空気が完全に凍りついた。


「…この、天然バカ…。」

 私はため息をつくしかなかった。


 しかし、ハインケルは気にする風もなくオリヴィアを牢から連れ出した。

 そして、私とシャル、オリヴィアを彼の前に立たせると、彼は膝をかがめた。

「豪胆なる姫君よ。

 その素直さが、時に問題を起こすことを、心に留め置かれよ。

 そして、貴女は、本当に良き臣下に恵まれたことを、くれぐれも忘れること無きように。」


 ハインケルは立ち上がり、牢内の人々に宣言した。

「今、ここであった記憶の一切を抹消せよ。

 さもなくば、貴女達の姫君の生命が無いと心得よっ!」


 沈黙のうちに全員が頷いた。

 ハインケルは颯爽と歩き出し、私達も彼の後に従った。

 誰も声を出す者は居なかったが、全員が私達の無事を祈るかのように見送ってくれた。


 ◇ ◇ ◇


 さて、収監牢の出口まで来たところで、私達を待ち構えていたのは異様な一団だった。

「ス、スケルトンのメイド?」

 オリヴィアが吃り、私とシャルは言葉を失っていた。

 ヴィクトリアン風のメイド服を纏ったスケルトン10体程が、衣装を手に乗せ佇んでいる。


「そのままでは、見窄らし過ぎます。

 化粧直しをお願いします。」

 ハインケルがそう言うと、メイド達は我々の周りについた。


 まぁ、仕方ない。

 連日の戦闘で泥まみれに汗まみれ…。

 湯浴みは勿論、水浴びもままならない上に、先の戦闘で装備もボロボロになっていた。


「では、ごゆっくり。」

 ハインケルは手を振り、誘われるまま我々は更衣室に連行されていった。

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