第28話 王女の戦後処理 後編

 ハンスたちの一幕の後、早速、交渉人の人選に入る御前会議。


「私が行きます。」

 ソープが手を挙げる。

 シャルとグレゴールを除く全員が驚きの声を上げる。


「ソープよ、お前何ということを言い出すんだ…。」

 トリトン伯がソープの肩を抱きかかえる。

「ソープ嬢、街の散策に出かけるのとは事情が違うんだぞ!」

「解ってますわ、カナーテおじさま。」


 四爵でも、年重の若いカナーテと呼ばれた男性は心配そうにソープを見ている。

「私は、シャルの親友であり、名門トリトン家の息女。

 人選がままならない現状では、最良の選択と思うのだけど?」

 ソープの説得に、四爵は黙ってしまう。


「私が同行します。」

 ハンスが立ち上がる。


「ハンス…」

 不安げな顔をするアリーナははを優しく見つめるハンス。

「母上、私は多少なりとも剣がたちます。」

 そしてシャルの方に向き直るハンス。

「少女を一人だけ使いに出すのは、王家の名折れ。

 まして、国防や治安に兵を割かなければならないのなら、尚の事。

 公爵家のモノがついて行けば、先方との交渉も少しは有利に働くというもの。」

 ハンスはゆっくりとソープの近くまで歩く。


「殿下、すぐにでも出発致します。」

 ソープが膝をかがめると、ハンスもソープの隣で膝をかがめる。

「解りました、準備が整い次第、魔城へ向かって下さい。」

「はいっ!!」

 二人は立ち上がると、シャルの見つめる中、颯爽と玉座の間を出て行った。


「いやはや、若いものはせっかちで困るのう。」

 オーウェンは頭をかく。

「いやいや、頼もしいじゃないですか。」

 カナーテがニコニコすれば

「お転婆過ぎるのが、玉にキズなんだよ。」

 トリトンもこめかみを押さえている。

「とりあえず、交渉が出来るかの結果を待つしかあるまい。」

 ゲイルはあいも変わらず、腕を組んでいた。


「伯母様、すいません。」

 シャルがアリーナの手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。

「いいえ、殿下。

 気になさらないで下さい。」

 アリーナの顔は不安で押しつぶされそうだった。


◇ ◇ ◇


 さて、ソープに指示された通り、正装に身を包み、王城の裏口に来たハンス。

 と、そこへソープもやって来る。

 それも可愛らしいワンピースドレスの姿で…。


「ソープ、まさか、お前その格好で魔城に向かうのか?」

「ええ、そうよっ!

 ハンス様も、凛々しくて素敵ですよ。」

「ああ、ありがとう。

 …って、この格好じゃ馬にも乗れないし、大体武装もせずに、あの平原を進むなんて、正気の沙汰じゃ…。」


 色々と説得を試みているハンスを横に、ソープはラインから借りていた巻き貝を口元に寄せ呟く。

「おい、ソープ聞いて…って、ええっ!!」

 ソープに詰め寄ったところで、一面が一瞬に暗くなったことに驚くハンス。

 恐る恐る振り返ると、黒いフードを被った巨躯のガイコツが暗闇から実体化してくる。

「やぁ、ソープ。

 手はず通りのようですね。」

「!!!」

 ガイコツがソープに話し掛けている。


「ええ、飛び入り参加が有ったけれど、予定通りの茶番劇よっ!」

 軽くウィンクするソープ。

「主がお待ちかねだ。」

「ええ、お願いします。」

 暗闇が広がったかと思うと、次の瞬間、三人はラインの私室に立っている。


「???」

 事態が全く飲み込めていないハンス。

「彼が飛び入りの?」

「そう、参加者よ。」

 ラインの質問に答えるソープ。


「では、ここで交渉を始めるとしよう。」

 交渉という言葉で我に返ったハンス。

「じ、じ、自分は、ほ、ほ、ホーランド王国、て、て、ティルト公爵が嫡男、は、は、ハンスであるっ!!」

「おお、これはハンス殿下。

 お越し頂き、光栄です。

 ささ、こちらにお座り下さい。」

 ガイコツに促されるまま、ソープの隣に座るハンスだった。


◇ ◇ ◇


 緊張するハンスをよそに、交渉はトントン拍子で進んだ。

「それでは、ここに取り交わした念書を、代理の者が携えて参ります。

 王女殿下と貴下の方々に確認頂くようお願いします。」


「いえ、代理など…。

 我々が持ち帰れば…。」

 ガイコツがそっと口元に人差し指を立てて黙るよう、ハンスに促す。


「ハンス殿下の言われることももっともですが、ここはお引取り下さい。」

「解りました。」

 ハンスが頷くと、ガイコツはゆっくりと立ち上がる。


「貴国の事情は、十分承知しました。

 早急に捕虜を解放します。

 が、我々の部下が王都へ捕虜を護送しますゆえ、間違っても攻撃しないように願いたい。」


「では、この目印を掲げて来なさい。」

 そういうと、ハンスは何故か自分の腹に巻いていたティルト公爵家じっかの旗を差し出す。

「解りました。

 殿下のご意向のままに。」


 その言葉を最後に、また回りが真っ暗になり、ガイコツが蜃気楼のように消える。

 そして、ハンスとソープは王城の裏口にいた。

「???」


「さぁ、シャルのところに戻るわよ、父も叔父様たちもまだ玉座の間に居るはずよ。」

 不思議がるハンスを置いて走り出すソープ。

「ちょ、ちょっと待ってくれっ!!」

 遅れてハンスも走り出す。

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