第2章 偽りの神々

第30話 立ち去りし君

 と言われた我が友は、もはや此処に居ない。

 この世界おもちゃに愛想を尽かし、此処から去ったのである。


 まぁ、我が友と呼ぶには、おこがましい話です。

 なぜなら、私は彼の供回りの末席に身を置くモノです。

 しかし、彼は私を寵愛し、私も彼の想いに応えてきました。


 唯一、彼が気に入らなかった事…それは、私が『治癒術の開祖』であった事。

 それも、彼に仇なす矮小なる虫どもに重用されるというシロモノだった。


 やがて、虫どもの争いが下々に広がり、己を愉しませる存在が生まれなくなった時、彼は此処を去った。

「オレはこの世界に飽きた、後は好きにするが良い!」


 そう言って、『精霊』といわれる者どもを始め、数多の存在を放り出し、彼は此処を去って行った。


 そして、時は流れ…。

 私のスキルを頼る虫どもに拠って、私は『神』なる称号を与えられた。

 虫けらに『神』と崇められるとは、思いだったが…。


 虫けらの希望に応え、治癒術を授ける日々。

 彼らの祈りに応えるうち、私自身にも力が宿ってくる。

 …なるほど、神とはこのようにして力を獲得する存在なのか。

 彼らの祈りが増える毎に、私の力が増していく…そして、私の自我が一つ崩壊していく。


 そして、連中は『死者の復活』まで懇願してきた。

 その頃には、私の中には良心の呵責など…無くなっていた。


 死者の魂などを復活させることなど出来はしないのだが…肉体と記憶が残っていれば、後は疑魂ファントムを定着させれば良い。

 疑魂ファントムは、私の体の一部であり、彼が活躍するほどに私へ力がもたらされる。

 …そして、私の自我がまた一つ崩壊していった。


 ◇ ◇ ◇


 私の力が絶頂を迎えようとしていた三百年前、ヤツが現れた。

『ハインケル』…私の力に頼ること無く、治癒術を行使できる逸材。


 遅かれ早かれ彼とは衝突する運命だった…。

 私の住まう神聖マロウ帝国皇都大聖堂地下…思えばヤツとの長い付き合いが始まる場所…。


封印シールドっ!」

 ヤツの放った神聖術式により、私は此処に縫い付けられ…活動も大幅に制限されることになった。

 まぁ、神聖術式後も祭祀、信者は途切れることがなく、私も力を蓄え続けることが出来た。


 供物くもつとして捧げられる生娘いけにえは、貞淑な肉体と絶望に打ちひしがれた魂が芳醇な味わいを醸し出し、力だけでなく私の空虚な魂も満たしてくれた…ただただ、私の自我が崩壊するままに。

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