第16話 影
ユークリウットとミルファはしばらく移動を続け、祠のある竜人の村の近くにやってきた。
「ユークさんはここで待機していてください」
「正面からは止めとけよ。木に登って周囲を警戒しながら村に行け」
「何故です?」
「……村が妙に静かだ」
「ユークさんもしかして静寂が怖いんですか?」
「そういうわけじゃないんだがな。付いていこうか?」
「ご心配なく。私は何ものにも動じない心の持ち主なので」
「あっ、幽霊」
「ふえぇ、どこ、どこですか、早く追い払ってユークさん!」
「嘘だ」
ミルファは咳払いをした後、右手を剣に変形させる。
「冗談だよ。待てよ。刃先を分子運動させるな」
「まったくもう。静寂に怯える腰抜けは大人しく待っていてください」
ミルファは近くに生えていた木の幹を蹴って駆け上がり、樹林の上を跳んでいく。
「……大丈夫かね、あいつ」
ユークリウットの顔つきが真剣なものに変わると、警戒を強めて地面を進む。
(何だこの違和感は……。村を支配していた竜人がいなくなったことによって人間たちが逃げ出したのか、ドラゴンや恐竜などの大型生物に襲われたのか。村は湿地帯の奥にあり、村の裏は山嶺に囲まれている。もしも人間が村から脱出したのなら道すがら見つけていてもおかしくはないが、周囲に人の気配は感じない)
思考を巡らしていたユークリウットがふいに左へ見向く。
「なっ!」
薄暗い影を落とす木々の向こうから一人の女が飛び出してきた。
女は両刃の剣に変形させた左手でユークリウットの首筋を狙った。
――ギィン!
ユークリウットは右手に出現させた光の剣で斬撃を弾くと、後ろに跳んで女と距離をとる。
艶のある長い黒髪。顎の整った輪郭と、威圧感のある切れ長の目は超然とした印象を放つ。スラリと伸びた長身の若い女で、その左手の得物は激しく分子運動していた。
「お前が犯人か?」
女は体の各部位につくられた空気孔から吸気を行いつつ、ユークリウットにそう尋ねた。
「何だと?」
「やはり竜人というべきか、随分と非道なことをする」
「何を言っている?」
「竜人に語る事など無い!」
女は殺気を漂わせながら体勢を低く構える。
「聞く耳持たず、か……!」
ユークリウットは左手の先から光の剣を伸ばし、両刀の状態で戦闘態勢に入った。
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「え……」
先行していたミルファは木の上から村の全景を眺めると絶句した。
村内では、四肢をバラバラにされた人間の死体が至る所で転がっていた。
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