第12話 アースドラゴン

 土色の尖ったうろこに覆われた躰。扇形の背中に生えている小さな両翼の外皮には鋭利な突起が生えている。先端が膨らんだ長い尻尾を持ち、歩くだけで地面を揺らす極太の四本足が体の下に伸びていた。しなりのある長く太い首の先には鶏冠とさかのある平たい頭蓋ずがいつぶらな両目が並び、大きな鰐口をもつドラゴン――アースドラゴンが口に含んだばかりの土塊をゴリゴリと噛み砕いていた。


 アースドラゴンは自由落下してくるミルファを視認すると、突進した。


「このっ!」

 ミルファは右手を銃に変えて二発撃った。


――キィンッ! カキンッ!


 硬い鶏冠が銃弾を弾いた。


 ミルファが圧縮空気を使って落下の軌道をずらす。

 アースドラゴンの巨体がミルファの横を走り抜けていき、大きく育った陰樹林の一端を雑草のように踏み潰したあと、ゆっくりと反転した。


 アースドラゴンの両翼が水平に開く。

 巨躯が一瞬震えた後、両翼に生えていた突起が散弾のように発射された。

 

 ミルファは両手足の空気孔から圧縮空気を放出して回避行動をとった。


「くっ!」

 突起の一部がミルファの右肩と左脇に直撃した。

 態勢を崩したミルファの体にアースドラゴンの尾が叩きつけられる。


「ミルファさん!」

 フィザが地面に転がったミルファの下へ駆け寄る。


「大丈夫」

 ミルファははっきりとした口調で答える。両手には円形の盾が形成されていて、地面に叩きつけられる直前に全身から圧縮空気を放出して衝撃をやわらげていた。

 フィザはミルファを心配する傍ら、マシン・ヒューマンとしての複雑な動作を一瞬でやってのけた事に深く感動していた。


 アースドラゴンは地面の土を食らっては飲み込む。程なくして両翼の突起が元通りに生えた。


「う、ああ……」

 陰樹林の一角に鎧を着た人間の男たちがいた。


――ヒュッ!

――グシャッ!


 アースドラゴンが振った尻尾の先で、鈍い音が連鎖した。

 男たちは即死だった。


「うああああっ!」

 一人生き残ったマシン・ヒューマンの男が圧縮空気を放出して空中に逃げ出す。


 アースドラゴンの尾が再びしなると、マシン・ヒューマンの男を一瞬で叩き殺した。


「マシン・ヒューマンを一撃で……」

 惨状を目の当たりにしたフィザがその場に立ち尽くす。


「……許さない」

 ミルファは空気孔から吸気をしつつアースドラゴンを睨みつけた。


「だ、ダメです。ミルファさんとはいえあんなのと戦ったら無事では」

「でも!」

「僕がおとりになりますから、その間にミルファさんは助けを呼んできてください!」


 フィザの右手に光の線がはしると長剣に変形する。長剣の内部で圧縮空気を高速循環させて刃先を分子運動させる。後背につくった空気孔から圧縮空気を放出し、素早く跳躍した。


「はああああああっ!」


 体を回転させてアースドラゴンに長剣を振り落とす。

 だが、鶏冠の表面に僅かな傷をつけるに止まった。


 アースドラゴンの目がギョロと動いて着地したばかりのフィザを視界に捉える。

 首が一瞬縮こまったあと発条ばねのように反発し、大きく開いた鰐口がフィザに襲い掛かる。


「くっ!」

 フィザは間一髪のところで避ける。


 やがてアースドラゴンの首が縮んでいくと地面にめり込んでいた頭部が空中に戻り、ミルファとフィザを見下ろした。


「硬い上に巨大な体躯。ジエチルノイアにいる奴よりもずっと大きい……これはまずいな」

 フィザが首元の汗を拭った。


「グオオオオゥ……」

 アースドラゴンの首が再び伸縮した刹那、


――ドゴッ!

 アースドラゴンの頭部が大きく弾かれた。

「え?」


一瞬何が起きたのか分からなかったフィザの前に一人の竜人が降り立った。


「何で出てきたんですか――ユークさん!」

「話は後だ」


 ユークリウットは両腕から光の剣を出現させると、鋭い眼光を放つアースドラゴンの前に歩み出た。

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