第10話 救世連盟
陰樹林に囲まれた山間盆地に、武装した数百の人間と、数十の竜人が戦闘を繰り広げていた。
鉄を加工してつくった人間の武器が竜人の光の剣と何度も交わる。
肉片が飛び、血飛沫をあげ、悲鳴と怒号が戦場で連鎖する。
「怯むな、これは人間の種をかけた
救世連盟と名乗る人間たちは目の前で殺害された同胞を踏み越えて竜人たちに立ち向かう。
双方は一進一退の攻防を繰り広げていたが、人数差の影響もあり竜人側が劣性に追い込まれていった。
「図にのるなよ、下等種族が!」
数人の竜人が淡い光で覆われた両足で空高く跳躍した。
「やっと跳んでくれたね」
林の陰から飛び出したマシン・ヒューマンの集団が片腕を槍に変形させて、宙に浮かんだ竜人を四方から串刺しにした。
波がかった銀色の髪の青年フィザ=ガイティは得物を竜人の体から引き抜くと、すぐさま別の竜人に飛び掛かる。
「さすがマシン・ヒューマン!」
「連盟の誇りだぜ!」
地上にいた人間たちから大きな歓声があがる。
フィザは更に竜人を殺害したあと着地し、手を突き上げて周囲の声に応えた。
「今が好機だ。かかれーっ!」
高揚感に包まれた人間たちが竜人に攻めかかる。
程なくして人間とマシン・ヒューマンの連合はその場にいた竜人を全て屠った。
「近くに竜人の村があるみたいだ」
「同胞がいるかもしれん」
「行くぞ」
人間たちは休む間もなく移動を始め、盆地の近くにあった竜人の村に辿り着いた。
村は大勢の人間奴隷と、竜人の子供たちがいた。
「何だお前ら!」
竜人の少年が来訪者たちの前に現れると怒声を発した。
「竜人の子供だな」
「どうする?」
「決まってる」
「――がっ」
マシン・ヒューマンの青年が竜人の少年を蹴り上げる。
フィザが槍に変えた右手で竜人の少年を刺し殺した。
それを皮切りに人間たちは村内になだれ込んでいく。
「人間のくせに!」
竜人の子どもたちが立ちふさがる。
人間たちは得物を持つ手に力をこめた。
振り下ろす刃に躊躇いはなく、竜人の子供たちが次々と屍に変わっていく。
「お前らがいるから……お前らがっ!」
男性が竜人の少年の屍に何度も槍を突き立てる。
「はは……あははは!」
男性の隣にいた女性は笑いながら竜人の少年の屍を踏みつける。
その行いが至福であるかのような徹底的な虐殺が村内の至る所で行われていた。
やがて奴隷にされていた人間たちが解放されると、純白の外套をまとった男性が現れる。
「我々は救世連盟。この無秩序で残酷な世界の中で人間に慈悲を与えることができる唯一の存在。人間の人間による自己保護、自己主義、自己闘争を唱え、魂を与えるこの世の希望。竜人に迫害される者たちよ。我々の導きに従い、ここに集え。そして叫べ。我々こそが唯一の人類であると!」
その場にいた人間たちの様々な感情が渦をなして雄叫びに変わる。
村内は人間たちの歓喜に満ち溢れ、その凱歌は周辺の陰樹林を駆け抜けていく。
騒ぎの中、純白の外套を着た男は、連盟員たちが集まる村の外れへ移動を始める。
「ちと昂らせすぎたかな」
男性――ニド=アレンスターは歓声を聞きながら得意げに鼻を鳴らした。
「順調だな」
純白の外套を着た男がニドに話しかける。
「新大陸における連盟の伝導も概ね受け入れられている」
「我々には任務があるのだ。そうでなくては困る」
「大それたことを言うな……救世連盟の教義はあくまで人類の救済だぞ」
「救済はしているだろう。尖兵は必要だからな」
「くく……悪い男だ」
「ニド総長」
小走りでやってきたフィザがニドの前に現れる。
「何だ?」
笑みを消したニドが返事をする。
「先行していたミルファ=フォーレンさんがたった今帰還したとの報告が」
「面倒なやつが帰ってきたか……」
ニドは嫌そうな表情で溜め息をついた。
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