第3話 竜人の村
密林の奥深くに小さな村が存在した。
「おらっ、さっさと働けよ、下等種族!」
顔に黒色の紋様が浮かぶ金髪碧眼の竜人の男が鞭で地面を叩いた。
薄汚れた布を身にまとう人間たちが一本の大きな丸太を担いで村に入っていく。
「うっ……」
丸太の端を担いでいた男がその場に倒れる。
男の顔はひどく青ざめていた。
他の者は倒れた男に視線を向ける事はあっても誰一人助けようとはしなかった。
――バシッ!
「まだお寝んねの時間じゃねえぞコラァ!」
竜人の男は倒れている男に鞭を叩きつける。
「はぁ……ひぃ、はぁ……」
「なに息切れしてんだよ。さっさと起きて働け、人間風情が!」
男の腹を蹴る音が何度も発生する。
「ほんと人間は使えねえなあ」
竜人の男は男の頭部を強く踏みつけながらいやらしく笑った。
「その辺にしたらどうだ」
「ああん?」
竜人の男が背後に見向く。
村の入り口に竜人の青年――ユークリウットが立っていた。
「てめえ誰だ?」
「ユークリウットという者だ」
「……竜人か?」
ユークリウットは右手を伸ばす。
右手の先から光の粒子がぽつぽつと発生した。
「間違いねえ、竜人だ。だが、ユークリウットなんてここらじゃ聞かねえ名前だ」
「一人旅をしている。
「で、そのはぐれ野郎が俺に何の用だ。まさかこの下等種族をいじめないで、っておねだりでもするつもりか?」
「そうだ」
「ギャハハハハハハハッ!」
竜人の男は体をのけ反らせて笑った。
「人間に肩入れする竜人なんて初めて見たぜ。いいか、よく聞け。人間なんて俺ら竜人の奴隷になるために生まれてきた下等種族なんだよ」
「ぐっ……」
竜人の男は男の背中を踏みつけた。
「こいつらは弱い。だが増えやすい。それを捕まえて使役する。食料にもなるし、遊び道具にもなる。力仕事なんて俺らがやった方が早いが、それじゃあ面白くないだろ?」
竜人の男は攻撃的な雰囲気を発しながらユークリウットの胸倉を掴んだ。
「頼みを聞いてくれたらこれをやろうと思っていたんだがな」
ユークリウットは腰にぶら下げていた小さな袋を広げる。
出現した色とりどりの鉱石の中から翠緑色の石を拾い上げた。
竜人の男の目がカッと見開いた。
「それ……翡翠じゃねえか!」
「やるよ」
ユークリウットは翡翠の欠片を指で弾いて竜人の男に受け取らせた。
「い……いいのか?」
「ここに少し滞在したい。村を案内してくれないか?」
「いいぜ、付いてこいよ」
竜人の男は嬉々とした様子で村の奥へ走っていく。
ユークリウットは地面に倒れていた男を見た。
男は痣だらけになった体を丸めて震えていた。
ユークリウットは
「傷薬だ。患部に塗っておくといい」
「……らなぃ……」
「ん?」
「……竜人の
「生きてれば良いこともあるさ」
「……っ、うぅ……ぅっ……!」
固く閉じた男の目元から大粒の涙が溢れていく。
「おい、何してんだ。早く来い」
竜人の男に促されてユークリウットは歩き出すも、しばらくして後ろを振り返る。
地面に倒れていた男は小瓶を拾うことなく泣き続けていた。
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