第4話 襲来

 ユークリウットはなだらかな坂道を通って村の中央に到着する。

 材木や葉を建材にした家屋が雑多に並び、その中心にある広場では老若男女の竜人が自由に時を過ごしていた。


「マイクだ」

 竜人の男――マイクは歩きながら自身の名前をユークリウットに告げる。


「右の建物は集会用の施設だが泊まるならここを使え。広場の奥へ行くと市場がある。宝石を持っていけば大抵のものは買えるぜ。何か食いたかったら傘つき机がある食堂へ行け。猿の肉が出るか恐竜の肉が出るかは日によって変わる。時にはドラゴンの肉が出る事もあるけどな」

「ドラゴンを倒すのか?」

「ああ。まあ、すすんで狙ったりはしねえけどな」

(村の自衛のためか)

「その辺にある建物は俺ら竜人の家だ。入ったりすんなよ」

 マイクは屋根付きの建物を指差しながらそう説明した。


「あれは何だ?」

 ユークリウットは村の西側の外れに建つ石造りの建物を見た。

 建物の前には二人の竜人が座っていた。


「村のほこらだ。あそこも余所者は近づくなよ」

「祠ねえ。ここの連中が信心深いようには見えないが」

「何か言ったか?」


 ユークリウットは振り向く。

 周囲にいた村の竜人たちがなめるような視線をユークリウットに向けていた。


「居心地の悪い村だな」

「紹介したいところがもう一つあったわ。ついてこい」


 二人は村の奥へ進む。

 布の上に品物を並べた露店が横一列に並ぶ通りに出た。

 ユークリウットは歩きながら露店を観察していく。木工の家具を売っている店の他に、動植物の皮を加工した衣料品や、磨製石器を売っている店など様々な品が売買されていて、店の売り子はみな鎖で自由を奪われた人間の少女だった。


「へへ、面白えだろ。誰が一番多く売れるのか勝負してんのさ」

「略奪に飽きた竜人がこうして遊興を求める傾向にある事は知っている」

「お前がいた村もこんな感じだっただろ?」

「いや……俺のところは危機意識がここまで低くなかったよ」

「下等生物と違ってゆとりがあるんだよ、ゆとりが」


 マイクは露店に置かれていた果物を徐に食べ始める。

 売り子の少女が何か言いたげな表情を浮かべたが、マイクに睨みつけられると俯いた。

「ケケケ」

 笑ったマイクの背後で、売り子の少女が店主の竜人の女に蹴られていた。

 

 二人は更に奥へ進む。

「ここだ」

 マイクはぽつんと建つ平屋の扉を開けた。

 薄暗い空間の中には首輪をつけた人間の女性たちが裸のままぐったりとした様子で寝ていた。

「お前もこういうところ好きだろ?」

「下らないヤツだな」

 ユークリウットはそう吐き捨ててきびすを返した。


 広場に戻ったユークリウットは丘の上から村を一望する。

 村の外周では日焼けした人間たちが竜人の監視の下、耕作を行っていた。その農地から少し離れたところにある掘っ立て小屋では人間の女性たちがやつれた顔で綿から衣類を作っていた。村の至るところで鞭を叩く音が鳴る。それは竜人の嗜虐心による娯楽。だが、中には鞭で叩くことに飽きて、光の粒子を発生させて作り出した得物で人間を威嚇する竜人もいた。


 竜人は『光の粒子を操る』特殊能力を持っていた。

 光の粒子でつくられた得物は高熱を発し、高い殺傷性があった。そのことは村で使役されている人間も理解していて、光の得物を出現させた竜人に対しては特に従順だった。


「圧倒的な力の差から形成される歪な価値観。人間の奴隷化。弱肉強食といえばそれまでだが、同じ姿で意思疎通のできる同族を何故そこまで悪辣に扱うことができる……」


 ユークリウットは竜人種に対しての違和感を吐き出すと、ふいに祠の方を見やる。

「……ん?」

 祠の一角にある格子窓の奥に人間の頭部のようなものが一瞬だけ見えた。


「銀色の髪……?」


 ユークリウットは首を傾げる。生物は住んでいる環境によって肌の色や髪の色、瞳の色などが生理的変化を起こす事があり、それは生物である竜人にも当てはまる。だが、銀色の髪は初めて見た。


「突然変異か霊の類か……まあ、行ってみるか」

「――おい、やべーぞ!」


 竜人の男が慌てた様子で村の外から飛び込んでくると、おもむろに叫んだ。


「村の近くでドラゴンが現れた!」

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