ドラゴンアース

田中優

第1話 風変わりな竜人

 


 ひんやりとした小風が高木林の中を通り抜けていく。


「ふあぁ……」

 高木の樹枝の上で寝ていた青年があくびをする。

 枝葉の隙間から青空に浮かぶ太陽が見えた。


「まだ昼過ぎか……寝よう」

 青年は枕替わりにしていた麻袋を置き直すと目を閉じた。


「キキーッ!」


 全身に茶色い毛を生やした猿の集団が枝を伝って青年の近くにやって来た。

 猿の集団は青年と麻袋をじっと観察する。


「……」

「……」


 しばらくして猿たちはその場から離れていった。



「……この地域のサルもくは勘がいいな」

 青年は体を起こすと、装丁が傷んだ本を懐から取り出す。


「あった」

 ページめくる青年の指が止まる。

 紙面には立ち去った猿の情報が図解付きで記されていた。


「あれがこの大陸のシンセカイザルか。だが、こっちの大陸の方が少し大きいか?」

 青年は考え事をするように猿の情報を眺めていた。


「うわああああっ!」


 高木林の下方で叫び声が上がった。

 青年は枝葉の隙間から下方を覗く。

 布切れを身にまとっていた人間たちが息を切らしながら川辺を下っていた。

 ――ダッ、ダッ、ダッ。

 恐竜の群れが逃げ惑う人間たちを執拗に追いかけていた。


「短い首。獣脚類特有の筋骨が発達した後脚と短い前足。青い鱗に覆われた大柄の体。間違いない……アロサウルスだ」


 青年は恐竜――アロサウルスの群れをじっと観察する。


「あっ」

 川辺で躓いた女性が声を上げた瞬間、アロサウルスに捕食される。

 女性を気にして足を止めた男性も振り向きざまに頭を食いちぎられた。

 悲鳴が川辺に響き渡る中、恐竜の群れは人間たちを次々と捕食していく。


「さすがに助けるか」

 青年は高木から飛び降りようとした瞬間、


「――ギャオオオオオオオオッ!」

 四つ足姿のが激しい鳴き声を上げて川上から現れた。

 それまで人間を食らっていたアロサウルスの群れが鋭く反応する。

 

 大型生物は口から水の塊を勢いよく吐き出した。

 ――ドンッ!

 水の塊を身に受けたアロサウルスが数メートル後方へ吹き飛んだ。

 アロサウルスの群れは捕食を止めて次々と逃げ出していく。



「はは……ははははは」



 青年は喜色交じりに笑う。



「ドラゴンだ」



 大型生物――ドラゴンを眺める青年の目は燦然と輝いていた。


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