第29話 ジベスの日記(隠し文字)


九月二十一日





 最近、誰かに監視されている。だが、人間、竜人、マシン・ヒューマンが信用という紙一重の精神で繋がりを保っている以上、この村で誰かを疑うのは御法度だ。いったい誰なのだ。


九月二十三日





 山菜取りに出かけた先でも視線を感じる。私が村から遠く離れるのを待っているような気がしたので、ユークリウットと共に村の近くにとどまった。


九月二十七日




 村民の葬儀の最中、村の外にいる研究仲間から便りが届いた。アリメルンカ大陸への渡航準備を始めたらしい。だが、監視者の目的が不明な以上迂闊に行動できない。どうすればいい。


十月六日




雨脚が強くなった夜。家の窓掛けを閉じようとした時、目が合った。雨降る闇の中、外套で身を隠し、無感動な瞳をこちらに向けていたが、私が瞬きをした間に忽然と姿を消していた。


十月七日




 監視者には明らかに敵意がある。それが村に対してなのか私個人に対してなのかは分からないが昨晩見たあの鋭い瞳は誰かと仲良くしようという気持ちが微塵も無いのは確かだ。


十月十日




 私の推論であるが、監視者の目的はおそらくこの私だ。ニュエルホンが誕生してからもう七年が経つが監視者は最近になって私の監視を始めた。ということは、直近で監視せざるを


十月十一日



得ない状況ということでもある。私が最近になって始めた事といえば、アリメルンカ大陸への渡航準備だ。あそこにはこの地球に棲む生物の進化を根本から覆す大きな事変の跡が残ってい


十月十二日




ると推測され、また、研究者間で取り沙汰された『微粒びりゅう光子こうし』の根源地もあると考えられている。もしかしたら監視者は、何らかの理由で私にアリメルンカへ行ってほしくないのかもしれ


十月十六日




ない。つまり、私は近い内に殺される可能性がある。この日記を読んだ者は他者の悪意に十分に気をつけてほしい。そして、この地球に隠された真実を解き明かしてほしい。私はおそらく


十月二十三日




アリメルンカ大陸には行けない。そんな気がするのだ。誰か、私の代わりにユークリウットに手を差し伸べてやってほしい。孤児で竜人だが、私の大切な子どもだ。


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