第40話 人類の共生
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アリメルンカ大陸の海沿いに面した丘陵地帯で、ユークリウットとミルファ、キュエリに介抱されていたエスナの四人が昼食を摂っていた。
「何だかすごいことを知ってしまいましたね」
ミルファは遠くに見える半島を眺めながらそう述べた。
「微粒光子のことは遅かれ早かれ周知の事実になっていたと思う」
エスナは、キュエリの膝に頭を置きながらそう呟く。
リセリアとの戦いで負った痛みが一日経った今でも体に残っていた。
「でも、半島には無闇に近づけないでしょうね。島の中にグンカンドリが大量死していたあたり濃度の高い微粒光子は生物にとって毒のような存在だから」
キュエリはエスナの頭を優しく撫でた。
「逆に能力を進化させる作用もあったぞ。フィザとかいう奴のマシン・ヒューマンとしての性能が前に会ったときよりも格段に上がっていた」
一人だけ岩の上に立っていたユークリウットはフィザとの戦闘を思い起こす。
「キュエリさん。微粒光子ってこの世から無くせないんですか?」
「この地球を巡る大気の中や生物の遺伝子の中にも入り込んでいる以上、消失させるのはまず不可能よ」
「そうですか……」
「先生、あの半島はどうしますか。連盟も半島の確保と封鎖を諦めてはいないと思いますが」
「放っておくのが一番よ。あの様子だと微粒光子は誰かがどうにかできるものではないから。だから連盟はこれからも半島の情報は隠匿していくでしょうね」
「この世界の生物進化よりも連盟の性根の方が歪んでいるんじゃないか?」
ユークリウットは嫌みったらしく笑った。
「人間は何の特殊能力も持たない生き物だからずる賢くなるのは致し方無いことよ。ユークリウットが連盟を嫌悪しているのってそういう部分でしょ?」
「ああ。差別を無くすということは自己愛を薄くすることでもあるからな。今の連盟は自己愛が強すぎる」
「どうしても連盟を受け入れられませんか?」
ミルファはユークリウットに質問する。
「そう言うミルファはどうしても連盟の肩を持つんだな」
「私でも連盟の体質や在り方には疑問と不満を持っています。けど、皆がみんな悪い人ではないし、連盟員の活動で助かっている人もいます。誰かに手を差し伸べることは悪ではないと思うんですよ。あとは『敵』と定めている竜人を受け入れられることができれば、お姉ちゃんが望んだ差別の無い世界ができると思うのですが」
「ユークリウットが連盟と竜人の架け橋になればいいんじゃないかしら?」
「御免だね」
「また怠け者になるつもりですかユークさんは。
「……そうだな。皆疲れているようだから獲ってこよう。けど、ミルファは元気だから要らないよな?」
「何でユークさんはそんなにも性根が腐っているんですかね……あ、そうだ」
ミルファは立ち上がると、分子運動させた左手でユークリウットの体を殴る。
ユークリウットの体が宙を舞い、草原の上に転がった。
「つぅ……何しやがる!」
「昨日言ったじゃないですか。ユークさんのことぶっ飛ばすって」
「ミルファのほうが性根どうかしているだろ」
「大丈夫ですよ。今の打撃、分子運動は通常の二割減ですから」
「くそ、脳が揺れる……」
「持病ですか?」
「お前が殴ったせいだよ!」
「相変わらず
ミルファは左手を細線に変形させて、ユークリウットの片足に絡みつかせるとキュエリの方へ放り投げた。その際、力加減をあやまってユークリウットはエスナとぶつかった。
「……二人共、大丈夫?」
キュエリは隣で重なっている二人を見やる。
「ん?」
ユークリウットは息苦しさを覚えて目を開く。
その頭部がエスナの胸部に
エスナのわなわなと震える右手がユークリウットの後頭部を掴む。
「この大バカ竜人がああああああああっ!」
エスナはユークリウットを丘の下へ蹴り飛ばす。
「ダメですよエスナさん。ちゃんと海岸の先から蹴り飛ばさないと!」
「ユークリウットにだけは本当に辛辣ね、あなた」
「……ミルファてめえ、いい加減にしろよっ!」
ユークリウットは両手の先から光の剣を出現させてミルファを見上げた。
「ちょっとユークリウット。それはダメ。大人気ないわよ」
キュエリが慌ててユークリウットを止めに入る。
「やる気ですか。いいですよ。私も昨日獲得した能力でユークさんを灰色に染めて――」
「止めろ!」
エスナが顔を引きつらせて叫んだ。
「なら素手で勝負だ」
「望むところですよ」
「素手もダメ。もっと平和的な方法で白黒つけなさい」
「えー……」
「そういえばミルファは鬼ごっこで捕まったことが無いらしいな」
「今回はそれで決着をつけましょうか」
「いいぞ」
ミルファが体の各部にある空気孔から圧縮空気を放出して高速跳躍を始める。
ユークリウットは地面を蹴ってミルファを追う。
遊びというには余りに速く、二人の影が陸と空を交互に移動する。
「……彼女は怖くないんでしょうか」
エスナは遠くに見えるミルファを眺めながら、ぽつりと呟く。
「リセリアをあんな姿に変えたのは微粒光子です。それが自分の体内に存在し、マシン・ヒューマンの能力の源になっているというのにミルファは普通に行使している」
「恐怖というものはある程度のところまで達すると慣れるのよ。私もね、初めて実地調査を行ったときは外の世界全てが怖くて仕方なかったわ」
「想像がつきません」
「生物は進化するけどいつかは死ぬ。たとえ体内に底知れぬ何かを抱えていたとしても、結局は生きることしかできないのよ」
「……なるほど。私は自分自身の研究がまだまだ足りないようですね。これからもご指導よろしくお願いします」
エスナが深々とお辞儀をする。
キュエリはたった一人の助手に対して柔らかく微笑んだ。
「遅いですよユークさん。そんな足捌きじゃドラゴンを倒せませんよ!」
「病み上がりだと思っていたがちょこまか動きやがって。本気出すぞ」
ユークリウットの足が淡い光に包まれる。ミルファを追う速度が一気に上がる。
ユークリウットとミルファが通った後に微粒光子がキラキラと舞う。この世界の進化を大きく歪ませた極小の生物も今は追いかけっこを彩る景色の一端になっていた。
それは旅を通して集まった四人がじゃれ合うだけの些細な日常風景。そこに明確な思惟も無ければ、何かを左右するような意味も無い。
そんな他愛ない小さな風景を、ユークリウットは心の中で
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ドラゴンアース 田中優 @Tanakayu_iris
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