第38話 真犯人


 地上ではユークリウットとフィザがそれぞれの得物を手に戦闘を繰り広げていた。


「因縁とはまさにこのことだな、ユークリウット!」

「なぜ俺の名を知っている?」

「知っているさ。この七年間、僕はお前を捜していたのだからな!」


 フィザの右手の剣が、ユークリウットを光の剣ごと押し退けた。


「当時、ニュエルホンには僕を除いて六十六人の住民が住んでいた。だが、あのとき村には死体が六十四しかなかった。ジベス=ローヴェルの死体は村を下りたところで見つかったが、その息子の死体だけはどこを捜しても見つからなかった」

「お前、まさか……」

「ニュエルホンを襲ったのは僕だ」


 フィザの顔が溶けるように変形する。

 青年の優男の顔から脂肪の多い中年男性の顔になった。

 ユークリウットは変化したその顔に見覚えがあった。ニュエルホンの住人として木材の伐採を担っていたマシン・ヒューマンの男性だった。


 顔を元に戻したフィザが低空を高速跳躍してユークリウットに直進する。

 ユークリウットは反応が遅れ、頭上に振り下ろされたフィザの右手の剣はかわせたが、槍に変形したフィザの左手に右脇腹を削られた。


 ユークリウットは左手の光の剣で斬撃を放つ。

 フィザは体の前面の空気孔から圧縮空気を放出して斬撃をかわすと、両手を剣に変形させて再度襲い掛かった。


「リセリアが竜人の街で竜人共を虐殺したとき心が震えたよ。マシン・ヒューマン以外の人類種なんてこの世には不要という僕の理想を体現してくれたのだから!」

「この半島へ来る前、竜人に支配されていた村の人間を殺したのもお前か?」

「そうだ。隊の足を止められても困るし、何より、ミルファさんのような高位のマシン・ヒューマンに気を遣わせていたのが非常に不愉快だったからね。どうして人間を守ってやらなきゃならない。この世が弱肉強食の世界なら人間なんていう弱者は死んで然るべきだ。竜人もいらない。進化の頂点に立つ存在は一つでいいからな!」


 剣戟が続く中、フィザの左足が大槌に変形してユークリウットを蹴り飛ばした。

 ユークリウットは側転して体勢を整えつつ、フィザへの認識を改めた。

(あの器用性と攻撃力はエスナやミルファに匹敵する。この島の微粒光子がマシン・ヒューマンの能力を高めているのか……?)


 フィザが低空を高速跳躍して、左足の大槌で蹴りを放つ。


 光の剣を消失させたユークリウットの両手が大槌を受け止める。右手を伸ばしてフィザの左足首を掴むと、光の能力を強めて発生させた高熱で足先を焼き落とした。

 フィザは失った足先を気にもとめず槍に変形させた右手でユークリウットの肩を貫いた。


「ぐっ!」

 ユークリウットは呻き声を漏らしながらも、槍を焼き切ろうと掴もうとする。

 フィザは圧縮空気を放出して瞬時に飛び退くと同時に左足を変形させて元通りに再生させた。


「ユークさん、何やってるんですか!」

 ユークリウットの足元の穴の中からミルファの声が飛ぶ。

「しっかりしてください。私はあれを兄とは呼びたくないですよ!」

「口の減らない奴だ……!」


 ユークリウットが不敵に笑うと、淡い光に包まれた両足で宙の中を駆けていく。


「空中を走るだと?」

 驚きを漏らすフィザの上半身に、光の剣が振り下ろされる。

「ぐうっ!」

 フィザは盾に変形させた右手で攻撃を受け止める。

「その能力……やはり竜人は生かしておけないな!」


 ユークリウットの右手の光の剣が、フィザの右腕の盾と再び衝突する。互いの力が拮抗する中、ユークリウットは上半身を前方に投げ出して、フィザの右肩を噛んだ。筋肉に歯が突き立てられて、グチュウ、と嫌な音を漏らす。その状態のまま体を振ってフィザの体を投げ飛ばした。


 ――ドサッ!

 地面に叩きつけられたフィザは身を翻して態勢を整える。

 ユークリウットの鋭い双眸がフィザに向く。

「お前が気にしなければいけないのは竜人の事ではなく、自分が永眠する土の硬さだけだろう」

「竜人ごときがっ!」

 フィザは背部から圧縮空気を放出してユークリウットに急接近する。


 盾から剣に変形させたフィザの右手と、ユークリウットの光の剣が衝突して火花を散らす。


「何故、この世界から差別が無くならないか知っているか? それは枝分かれした人類が三つもいるからだ。貴様だってこの世界を見てきただろう。竜人は人間を家畜以下に扱い、人間はマシン・ヒューマンを利用して、マシン・ヒューマンは心の底では人間と竜人を下等と捉えていることを!」


 ユークリウットは攻撃の最中、アリメルンカで見てきた光景を思い出す。


「差別は常に標的を求める。弱者を探し、巡り巡って全てを食らい尽くす。自分の身を守るだけで精一杯の世の中で、他の種を思いやるなんてことは不可能なんだよ。だから滅ぼさなきゃいけないんだよ!」


 ユークリウットの光の剣が、分子運動するフィザの剣をかち上げた。


「お前が選民思想なのは分かった。だが、それを常識のように言われても迷惑だ」

「貴様は数千年続く人の差別の歴史を知っているのかっ!」

「差別があるのなら無くせばいい。それが人類の本当の『進化』だろう!」


 ユークリウットの光の剣が雷のように強く発光する。

 フィザの剣の分子運動も極限まで高まった。


 互いに全力を注いだ二つの得物が、激しく衝突した。


 ――ズシュウウッ!

 ユークリウットの光の剣がフィザの剣を肩ごと破壊して切り落とした。


 更にユークリウットは左手に光の剣を出現させ、フィザの胴体を真二つに斬った。


「ぐはっ……!」

 フィザは血まみれになった口を大きく開く。

「――差別の無い世界なんて幻だ! 貴様の故郷だって滅んだだろう!」


 ――ガシッ!

 ユークリウットの右手がフィザの顔面を鷲掴わしづかみにする。


「ニュエルホンなら滅んでなんかいない。人間と、マシン・ヒューマンと、竜人が一緒になって旅をしてきたにあるぞ!」

 ユークリウットの右手の先から光の粒子が大量に放出される。太陽のように輝くその光は高熱を発してフィザの頭部を上半身ごと蒸発させた。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫?」

 キュエリが溝の斜面を滑り降りて、ユークリウットの下へ駆け寄る。

「来るな……まだ、終わってない」


 ユークリウットは微粒光子が絶えず上昇する地下へ続く穴に目を向けた。


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