033:精霊界最強決定コンペ開催!⑦




 朔弥が弁当を手に立ち上がった。


「ニクス!ヴァルナ!第一種戦闘配置!」

「え?まだ食ってる」

「スイートポテト美味しいですわ」

「働けよ!メシは後だ!厨房撤収!」

「「えええ?!」」


 厨房撤収中のテントの向こう、動く気配に朔弥はハッとする。側にはニクスが立っていたがカレーに夢中である。


「おい!ニクス!」

「ん?なんだ?」


 ニクスの背後、恐竜映画よろしくレックスタイプのドラゴンが大口を開けている。翼もなくドラゴンと呼ぶにはだいぶイメージが違う。お約束の絶叫シーンだが振り返ったニクスは呑気な声を出した。


「ああ?えっと?オスだな。年寄りでも子供でもなくて弱ってなくて‥あとなんだったか」

「それはもういい!」


 食われる!と思ったところでドラゴンの首が飛んだ。鋭利な何かで切られたようにざっくりとねられた首が地面に転がる。後を追うように首のない胴体がどすんと横倒しになった。


「子連れでも妊婦でもなし。ヤル気は十分だったが残念。全然弱かったな」


 カレー皿を持ちカレースプーンを咥えてニクスが切り落とした首を蹴る。同じくヴァルナもどうやったのかドラゴンを串刺しにしていた。串刺しの勢いで宙に浮くドラゴンの体から串が消え骸が地面に落ちる。


「こちらもオールクリアですわ」

「1対1な。やっぱここいいな。獲物が

「お前ら!わかってて!」

「もうコンペはスタートしてんだろ?ドラゴンとしては小型だが数は多い。判定しやすいだろ?サクヤはジャッジしてればいいんだよ」

「ゆっくりお弁当を召し上がってくださいな」


 やんわり微笑んだヴァルナが背後のレックスドラゴンを蜂の巣にしている。どうやっているのかよくわからない。怪訝な顔の朔弥にヴァルナが頬を緩ませた。


「フフッ 水は変幻自在、千変万化。気体にも固体にもなりますわ。この応変が水の特性。なかでも液体が最強でしてよ?一つの雫が岩をも穿ちますわ。あとは圧をコントロールすればこの通りですわよ」


 岩を突き砕いたヴァルナの水に朔弥が唖然とする。あれは知っている。


「‥‥ウォータージェットカッター?マジか」


 水に高い水圧をかけて音速を超えるスピードで打ち抜き切断する。それをこの大精霊は成しているようだ、スイートポテトを食べながら。


「水にも色々弱点があんだぜ?その点」


 カレー皿を片手にニクスが襲いかかるドラゴンを殴り上げている。昇竜拳のようだ。


「ニクス様の拳は弱点なし」

「燃費が悪いですわ。燃料かかりすぎです」

「それは拳に関係ない。殴らなくても腹は減る」

「まあそれもそうですわね」

「お前ら緊張感ねぇのな!」


 大精霊二人はきょとんとした。


「だって強いんですもの」

「王サマは下がってろって。守ってやるからよ」


 やる気満々の二人にルキナがついと歩み出た。表情は薄いが語気が強い。どうやら怒っているようだ。


「ちがう!サクヤさいきょう!よわくない!」

「でも精霊魔法を使えませんわよ」

「仕方ねぇだろ。王サマは戦闘力皆無だし」

「ちがう!サクヤいちばん!ぞくせいいっぱい!」

「属性が多くても力が分散してしまいますわ」

「はいはい、強い強い、お子様は下がってろって」


 ニクスにこづかれルキナがむすっとした。光と闇、属性の格は対等だが戦闘力が違う。ルキナが不利だ。そうでなければここで大喧嘩になっていただろう。むくれるルキナの頭を朔弥が撫でた。


「ルキナ、ありがとな」

「むぅ、みんなわかってない」

「まあ戦ってもらえて俺は助かってるけどな。危ないから下がってどちらが強いか見てような?」


 口では強いと散々聞いている。持っている力の気配でもその片鱗は感じていた。だが実戦を見るのは初めてだ。王とていつ寝首を掻かれるかわからない。目の前の力をきちんと見極めておかなくては。


 ニクスがカレーをかっこみカレー皿を投げた。それを小精霊が華麗にキャッチ。悪役ヒール顔のニクスが牙を剥いて指をボキボキ鳴らした。


「さて、じゃあきっちりケンカすっか。厨房が戻ってこないからな」

「ホント、スイートポテトまだ半分しか食べていませんわ」

「あの大皿の半分も食ったのか?!」


 小精霊総出でマッシュしたさつまいもにバターをふんだんに使った大皿スイートポテトの半分を食べたはずの大精霊は朔弥の声に不満げだ。


「残りは取っておいてくださいね。イクラ丼と一緒に食しますわ」

「食べ合わせわっる。イクラ丼はわたしが食うってんだ!」

「私ですわ!」


 ニクスが手を空に掲げる。闇が集まり大きなカマを形作った。死神の持つような大鎌をニクスが軽々と振り回す。あれが先程、最初のドラゴンの首を刎ねたのだと朔弥は理解した。再びニクスが手を天に掲げる。その手に闇が集まり小さな玉を作った。


「元気な若いオスでヤル気のある奴限定だ!こっちこい!」


 闇の玉を握り潰し砕く。地表のレックスドラゴンがニクスに目掛けて突進してきた。


「呼び寄せましたわね!ズルいですわ!」

「あたしの特技だ。わりぃな」 


 ニクスが背負った鎌を振り翳し駆け出した。そして振り下ろす。その黒い衝撃波でドラゴンの首が飛ぶ。その返り血をくぐり抜けニクスはドラゴンの群れを駆け抜ける。ニクスの姿は見えなくなったが飛び散るドラゴンの血と肉片で居場所がわかった。


 え?ひとりでやってんだよな?闇の魔王ラスボスか?

 戦国無双?一騎当千?血の雨が降りすぎだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る