036:精霊界最強決定コンペ開催!⑩
ルキナに手首を掴まれて体内で何か
フラッシュのように目に残像を残すほどの強い光を放ち閃光がビームのように空に放たれた。だがそこは何もない空間。閃光が空間を切り空彼方に突き刺さる。
「ずれた。もうすこしした」
「え?え?え?!」
え———?!
自分の手からヒーロー戦隊顔負けの光線が出た。辺りが白やけするほどの眩い光。今も出続けている。その訳がわからない展開に朔弥に抵抗もない。ルキナに手を押し下げられ朔弥の手が鬼を捕らえた。
右斜め下に振り下ろされた朔弥の手を追って閃光が鬼のいる空間を上空から斜め下に切り裂いた。ザンッと音をたてて鬼の体が分断される。高熱のあまり焦げた匂いさえしない。勢い余った閃光が遥か彼方の山を抉り取った。
閃光で削られた箇所から鬼は砂塵の如く崩れていく。
目の前で鬼が真っ二つになった。自分が削ることさえできなかった鬼があっさりと。
巨人の近くにいたニクスが唖然と目を瞠る。
「え?あたしの鎌が‥」
閃光に巻き込まれた黒い鎌の先端は失われていた。ヴァルナも茫然としている。そして二人は同時に朔弥を見やった。二人と目があった朔弥も茫然自失である。
「え?」
「え?」
「え?!」
「いったでしょ?サクヤさいきょう。あれはわたしたちじゃたおせない」
「‥‥‥‥ルキナ?」
朔弥が
その頃には黒い鬼神は塵となり朽ち果てていた。
「えー、それでは本日のコンペの結果を発表する」
時空を抜けて撤収してきた一行は城内で安堵の息をついた。散り散りになったミズキの小精霊が集められ朔弥の手で再構築された。傷を負って穢れた部分も修復する。記憶もきちんとあり穢れの転移や後遺症もなさそうだ。穢れを最小限にするためにミズキは体を解体したのだと今ならわかった。
笑顔のミズキに朔弥はほっと胸を撫で下ろした。
そして現在。朔弥の声に大精霊二人は灰のように真っ白に燃え尽きていた。二人とも力なくダイニングテーブルに突っ伏している。
「もういいって~サクヤ最強~イクラ丼はサクヤ~ウチらは最弱の大精霊ですぅ~弱くてゴメンナサィ」
「俺は強くないって」
「じゃあルキナとセットで。あんだけイクラ丼であたしら煽って王サマ最強とかズルいだろ?」
「いじけるなよ、なんか悪かったって。元気出せよ」
「そう言われるとますますイタいですわ。
「お前ら十分強いだろ。腐るなって。まあ今回は俺も深く反省してる」
外の世界を舐めていた。ここは常世ではないのに平和ボケが悪く出てしまった。挙句は偵察もなしに飛び出した上に攻撃と防衛をこの二人に頼りきりにした。せめて己の防衛の手立てを備えた上で外に行くべきだった。そこに自分の判断の甘さがあった。
さらにはルキナ監修の
だが結果オーライとは言えない。これでは無自覚無免許でダンプを乗り回した危険行為だ。ルキナのおかげで幸い怪我人はいなかったが自分が暴走していたら巻き込んでいてもおかしくなかった。力が強いとしてもこれでは意味がない。朔弥の中では危険運転致死傷未遂で有罪である。新たな問題と課題の発生に朔弥からため息が出た。
「今回のコンペは仕切り直しだ。ほら、みんなでイクラ丼食うぞ」
「「みんな?」」
「おう、みんなで溢れイクラ丼だ」
お手伝いし隊の小精霊が二人の前に炊き立て白米入りどんぶりをどんと置いた。敷き皿付きだ。そこへヒカルが三ッ星シェフのような恭しい手つきでイクラ醤油漬けを溢れんばかりによそった。小精霊がトッピングに刻みネギと貝割れ大根、刻み海苔を散らす。
その様子を大精霊二人が目を輝かせヨダレを垂らして見ている。精霊界最強と謳われる大精霊としては相当に情けない姿だ。
「ううッ 旨そう!こぼれイクラ丼!頑張った甲斐があった‥」
「なんて美しいのかしら‥宝石みたい」
「まあ今回は迷惑かけたしな、皆で食べよう」
「「いただきまーす!」」
全員分のイクラ丼が出揃いヒカル、ミズキも席についた。全員揃ったところで朔弥は手を合わせた。
「いただきます」
結局あの鬼が何だったかはわからない。朔弥の精霊魔法を受けて全て崩れたため、小精霊でもかけらを見つけられなかった。
なぜあれがあそこにいたのか、なぜあの時現れたのか、本当にあれは自分が創ったのだろうか?だとしたらあれの存在意義は?自分がこの世界を創ったという割にはわからないことだらけだ。
もっと調査が必要だな。それも今後の課題か。今日はこの二人が十分強いということもよくわかったし。それに———
「サクヤ、イクラどんおいしい」
笑顔でイクラ丼を食べる傍らの白い少女を見やる。年頃は十四、五くらいだろうか。大人びた様子は少女と呼ぶにはふさわしくないのかもしれない。
ルキナの底知れない強さもわかった。この少女は見た目通りではない。精霊界最強位に属する光の大精霊。だが目の前のルキナは相変わらず自分にとっては愛らしい存在だ。以前ヴァルナが言っていた、大精霊の輝きの一つ、強さ。それはこういうことなのかも知れない。
「これはますます頭が上がらないな」
近い将来自分はこの少女の尻に引かれるんじゃないかという予感を胸に朔弥はイクラ丼を頬張った。
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