037:開かずの扉①




「「「「「いただきます」」」」」


 いつものようにダイニングテーブルで夕食が始まった。


 ここで飯を食べるヤツはここのルールに従え!と言うことで挨拶から始まる。キッチンからは今日のメインの唐揚げとエビフライが大皿でどんどん運ばれてきた。お手伝いし隊の小精霊が運んでいるので皿が宙に浮いている。毎度のポルターガイストである。


 日本家庭によくある大きめのダイニングテーブルに国籍ごちゃ混ぜの衣装の美女・美少女たちが日本の家庭メシをがっついている。今日はヴァルキリーも下界から戻っていているため食卓が賑やかだ。


「わぁ!サクヤ料理上手なんだね。これ唐揚げ?すごく美味しい」

「だろ?旨いからって唐揚げばっか食うなよ。あたしの分がなくなるだろ」

「取り皿足りてるな?ニクス!お前も唐揚げばっか食うなよ!ちゃんと野菜食べろって」

「はいはーい、後で食べるって。肉が先!ヴァルナさんも野菜食ってないでーす」

「私はサクヤ特製青汁を毎朝飲んでますから十分ですのよ。美容に良いですわ」

「あれが飲めるなら野菜食えそうなんだがなぁ」

「苦しみは一瞬で終わる方が良いですもの」


 凶暴な大精霊は野菜嫌いな傾向にあるようだ。ルキナとヴァルキリーはなんでもモリモリ食べている。


 ちなみに樹木の大精霊ファウナは性格に関係なく緑の野菜免除である。これは一種の共食いだ。


「えーと、ところで?そこの君は誰だ?」


 おかずが出揃い席についた朔弥がルキナの隣の少女を見やった。肩までの金髪で目元がやや鋭い。耳からは翼のような羽が見えている。野生味のあるギャルっぽくも見えるがどこかであったような気もしないでもない。だが思い出せない。

 話しかけられてサラダ菜を手でむしゃむしゃ食べていた少女がにっと愛嬌のある顔で朔弥に笑いかけた。


「お前らの知り合いか?」

「いいえ?サクヤが呼んだんじゃありませんの?」

「いや?呼んでない。え?じゃあ誰?」

「これ、たべていいよ」


 ルキナが珍しく謎の少女の世話をしていた。サラダやエビフライを取り分けている。少女が人懐っこくルキナににこりと微笑んだ。エビフライを摘んで尻尾まで口に放り込み豪快にバリバリと咀嚼そしゃくする。全て手づかみ。テーブルマナーがなっていない。


「ああ、なんだ。ルキナのトモダチか?仲良くしてくれてありがとな」

「ヨナ」

「へ?」

「これ、ヨナ」


 ルキナにヨナと呼ばれた少女がきゅうりのスライスを手に目を細めて朔弥にニカッと笑った。その細目の笑顔があの白いホウと重なった。初見でまだ幼い鳥だと思ったがあの鳥は本当に幼かったようだ。


「え?!ヨ?ヨナって?!あのヨナか?!」

「え?こいつってあのハクホウか?ヨコヅ」

「おいそこ!それは禁句だ!」

「クェェ」

「サクヤのゴハンたべたいって。だからよんであげた」

「え?俺のメシ?なぜ人形ヒトガタなんだ?!」

「このすがたならゴハンたべられるって」

「鵬でしたら変化へんげの技を身につけているんじゃありませんの?」


 ヴァルナの言に朔弥が目を瞠る。鳥のくせにそんなことも可能なのか?

 そこで朔弥がハッと気がついて慌てて唐揚げの大皿を取り上げた。


「うわぁぁッ すまん!今日とり唐にしちまった!グロいメニュー出しちまったな!」

「全然わかっていないと思いますわ」

「あたしの唐揚げ!皿返せ!こいつ草食だろ?どうせ食わねぇよ。草でも食わしときゃいぃんだよ!」

「クェェ」

「きゅうりおいしいって」

「わぉ!ホウってあのホウ?白いのは初めて見るよ。キャーッ カッケーッ 名前は?え?ヨコヅナ白ほ」

「おいそこ!名前繋げるな!俺の傷を抉るんじゃない!」


 わあわあ騒ぐ食卓にファウナが目元を覆い嘆息する。ファウナは未だにこのノリに慣れていない。

 ヨナとわかり朔弥は笑顔だ。ヨナにきゅうりを一本丸ごと差し出した。


「なんだヨナか。びっくりした。野菜が好きか。きゅうりもっとあるぞ?いいヤツじゃないか。野菜好きに悪いヤツはいないぞ」

「肉が好きだからって私たちが野蛮のように言わないでくださらないかしら?」

「肉は正義だろ?!」

「もっと草食を見習ってほしいんだがな。色んな意味で」


 ヨナがトテテと朔弥に駆け寄り朔弥の差し出したきゅうりに直に齧り付いた。直食べは鳥の姿なら餌付けになるが人形の姿では微妙である。きゅうりが嬉しかったのか笑顔のヨナがさらに朔弥の首に抱きついた。朔弥の頬にすりすり頬擦りする。

 鳥とわかっていても人形では十四くらいのワイルド美少女。餌付けで好かれたと理解していてもルキナ以外免疫のない朔弥は慌てまくった。それを肴に大精霊たちのメシが進む。


「クェェ」

「うわぁぁッ ヨナッ ちょっと待て!」

「あらあら、すっかり懐いてますわね」

「にゃんにゃんするならアッチでやってこいよ。メシの邪魔だ」

「あれ?この子もサクヤのアレなの?鳥でもオッケー?サクヤはストライクゾーンが広」

「おいそこ!誤解だ!表現が不適切と何度言えば!」


 擦り寄るヨナをべりっと朔弥から引き離した。ルキナだ。


「ル?ルキナ?」

「ヨナ、め。サクヤはルキナの」

「クェェ?」

「なでなではルキナがする。サクヤだめ」

「クルル」

「ルキナがヨナなでる。サクヤはルキナなでて」

「お?おう?」


 ルキナが頭を撫でればヨナが目を細めて大人しくなる。どうやら撫でて欲しかったらしい。甘えん坊である。一方で朔弥は茫然自失である。ルキナがヨナをなでなで。朔弥が膝に乗ったルキナをなでなで。この展開について行けていない。


 え?なんだコレ?


 そこを大精霊三人が見逃さず茶々を入れてきた。イジる気満々である。ついでに箸も進んでいる。


「まあまあ、ルキナも随分成長しましたわね」

「うんうん、ヤキモチ妬くくらい成長してる!美少女二人のラブラブカワイイぞ!」

「え?え?」

「愛されてんだろ?よかったな王サマ。三人でにゃんにゃんするならアッチ」

「ソレやめろ!わざと言ってんだろが?!違う違うッ誤解だッこれは父か兄を取られると思ってだな!」

「良い展開でございますわ!このまま是非ルキナを側女に!」

「うわぁぁッファウナさんまで?!目が怖いって!四人攻撃はやめて!」

「フッ やめて欲しければメシよこせ!ゴハンおかわり!」

「私もですわ!」

「ん?じゃあ私も?」

「お前ら野菜も食えよ!」


 もう大精霊の総攻撃に勝てる気がしない。ルキナとヨナ、美少女二人に取り合いされて朔弥はため息をついた。


 

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