004:きみにきめた!②
名前がわかった。そうなると次は少女のぶかぶかの服が気になった。
「んー、一体誰がこの服を着せたんだ?サイズが全然合ってないし。なんか似合ってないし。せっかく可愛らしいんだからもっとこう‥」
白いレースの?フリフリのワンピース?膝丈の?そんでもってリボンがたくさんついてるような?袖は総レースで?裾の細いリボンだけ瞳と同じで青い?
脳内で白いワンピースをイメージする。
「あ、そうそう。そんな感じ」
朔弥の背後から差し出されたワンピースがまさに朔弥が脳内でイメージしたものだった。背後から伸びた白い手がそれを摘んで広げて見せている。
「すげぇ、まさにそれ!いいねぇ一体誰‥」
朔弥が振り返って絶句する。ワンピースを持つ白い手は肘から先が伸びている。それが空に浮いていた。少し小さいサイズの腕に体は存在しない。少女の周りの空間から白い手がわらわらと出てきて少女から服を脱がせようとする。
「は?なんだこれ?え?ここで着替えんの?ちょっと待った!」
朔弥が慌てて背中を向ける。少女でも女性は女性だ。そしてなんとなく理解した。
小精霊がお世話ってあの手?‥アレか?もうホラーじゃねぇか!色も白くってたくさん出てきたらメチャクチャ怖ぇッ‥ってか?大丈夫なんだよなオイッ 振り返ったらスプラッタとかやめてくれよ?
ホラーは大の苦手だ。
終わったよ、とトントンと肩を叩かれ朔弥が恐る恐る振り返れば少女の着替えが終わっていた。白い髪がふわふわウェーブにカールされてて服にぴったりだ。年相応の愛らしさが強調され朔弥は内心ガッツポーズだ。
うぉぉッ めちゃくちゃかわいいッ 似合うッ
グッジョブ白い手!やっぱ髪はゆるふわウェーブだよな!
だが足は素足。髪に装飾もない。ワンピース以外を忘れていた。
あの白い手は消えていた。朔弥が目元を覆いふぅと息を吐いた。あの手とこの服がどこから出てきたのか———
いちいち反応してたらこっちの身がもたない!
もう気にするな!
少女、ルキナが不思議そうにワンピースのあちこちを見ている。髪も肌も服も白いため全身真っ白だ。青いリボンが白に映えている。
「うん?似合ってると思うけどどうかな?」
ルキナは朔弥を見上げこくりと頷いた。無表情だが気に入ってくれた様だ。その程度の感情はわかったような気がした。
「さて‥と。次はここがどこなのかってことだな」
少女が裸足でとててと部屋を駆け抜ける。今までの服は大きすぎて裾を引きずっていた。膝丈で身軽になり走れるのが嬉しいようだ。朔弥もそれについて行き大部屋を抜ける。和風とも洋風ともつかない豪奢な部屋を抜けるとそこはバルコニーだった。
「‥‥‥‥なるほど?これはやっちまった」
見下ろすバルコニーはマンションで四階くらいの高さ。朔弥がいる場所は石造りの城だった。お伽噺で描かれそうな城だ。そのバルコニーの手すりから外を眺める。
街がない。住宅街もない。ただひたすらに森が続く。緑の森の先には同じく緑萌ゆる山がそびえる。そこは緑の世界。見える限りで生き物や人の姿は皆無だ。
「へぇ?これが精霊界?思ってたのと違うな。随分と殺風景?」
脳のどこかで信じきれていなかったが、外の景色を見て確信した。これは今までの世界と違う。
「ホントに精霊界に来たってか‥うわぁ‥」
思ったほどダメージがないのはあちらに思い残すものがないから。
思ったほどワクワクしないのはこちらに期待するものがないから。
「ここに来たいと願ったわけじゃないし。仕方ないよな」
ふと家に残した仏壇が脳裏を掠める。
もうここはあの遺影さえ存在しない世界。
朔弥の過去が存在しない世界だ。
最初こそ慌てたが今は状況を冷静に見ている。脳の奥で冷静に目の前の現実を受け入れていた。ファウナに言われた繁殖期云々は都合が悪い。早々に記憶から消し去った。
「ま、こうなっちまったからにはしゃあないな。なるようになるだろ」
早速悟りを開いた朔弥は傍に寄ってきたルキナの頭を笑顔で撫でた。
何よりトモダチができたし。悪くない。
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