028:精霊界最強決定コンペ開催!②




「でもよぉ、外は外で色々いるぜ?いいのか?」

「———いる?何が?」


 血湧き肉踊っていた朔弥がびくりと固まった。朔弥はとにかくホラーは嫌いだ。アクション系のモンスターもゲーム内ならいいがリアルでは勘弁である。そこを突くようにニクスがにたりと笑う。


「おう、ぜ?いわゆるモンスター?王サマは強かったんだっけか?」

「秘境に野生動物はつきものだ!精霊王は最強なんだろ?!」

「まあ普通の王サマはな。サクヤは普通じゃねぇし?野生動物?そんな可愛いもんかよ。ドラゴン出たらマジで食われるぞ?」

「ド、ドラゴン?!」


 そんなもんまでいるのか?!マジファンタジーだな?!だがマッパーとして血が騒いだ以上ここで引き下がれない。


「弱者は無用に出歩かないことですわ。まずは精霊魔法を使えるようになってからでいかがですの?」


 茶を啜りヴァルナがおっとりたしなめる。その言葉に朔弥がカチンときた。王と口で敬う割にはひどい扱いだ。


「俺が食われる?弱者?ふぅん、じゃあお前らが弱いってことだな」

「あら?そんなことありませんわ」

「なんでそうなんだよ?」

「お前らも一緒に行くからだよ。俺が食われるということはお前らが王を守れなかった最弱の大精霊ということだ」

「あ?あんだと?」

「精霊界最強ってのは自称か?完璧なレディは強さも兼ね備えてんだろ?」

「まぁ?私が負けるなんてありえませんことよ」

「あたしだって負けたことねぇ」


 釣れた。朔弥が内心ほくそ笑む。


 そこで朔弥が何気を装って疑問を呈する。


「ところで二人はどっちが強いんだ?」

「あたしに決まってんだろ?ドラゴンだって切り裂いてみせるぜ」

「まあ、私ですわよ。ニクスは全然ダメ。深追いし過ぎてドラゴンの胃袋に入ってしまいましたもの」

「まだそれ言うか!別に腹から出てきたから問題ねぇだろが!」


 二人が珍しく言い争っている。朔弥的にはどちらが強くても構わないのだがここが燃料投下時だと本能で理解していた。


「じゃあ俺が判定しよう。三日後に外に行く。その時俺が強いと思った方には特賞としてこぼれイクラ丼を進呈しよう。もう一人は白ごはんのみな」

「「こぼれイクラ丼!!」」


 二人の眼光がキリッと鋭くなった。


 説明しよう!!


 こぼれイクラ丼とはご飯をよそったどんぶりにこれでもか!とこぼれんばかりにイクラの醤油漬けをのせた丼である。文字通りどんぶりからイクラがこぼれている為、どんぶりの下にこぼれたイクラ用の皿が敷いてある、といういやしんぼの丼である。


「こぼれイクラ丼ぜってぇ食う!敵は任せとけ!あたしがみじん切りにしてやる!」

「みじん切りなんて生ぬるいですわ。私が一瞬で蜂の巣にしてご覧に入れましてよ?」


 イクラ丼という人参で最強牝馬二頭にエンジンがかかった。朔弥が心中ふふんと鼻で笑う。メシの前ではこの二人はチョロい。


「でもよ?なんで明日じゃなくて三日後?」

「察しろ。お前らの弁当を作り込むのに時間がいるんだよ」

「やった!弁当!絶対とり唐入れてくれ!」

「私はスイートポテトがいいですわ」

「スイートポテト?とり唐減るからいらねぇ」

「いります!とり唐やめてでも入れるべきですわ!」

「ダメだ!とり唐!ぜってぇとり唐!サクヤ!ぜってぇ入れろよ?!」

「サクヤ!絶対スイートポテトですわ!」


 弁当のおかず争奪戦争勃発。言い争ういやしんぼ二人に朔弥は辟易へきえきとする。この二人の言い争いは大概くだらない。


 で、両方作るのは俺なんだが?ヒカルと小精霊が手伝ってくれてなければ二人ともはっ倒すところだぞ。


 一方でファウナは心配げだ。外へ行くのは反対のようだ。眉間のシワが深い。


「ファウナさんは反対?」

「感心はいたしません。あの二人が随行であれば最強の守りではあります。それでもまさかはありましょう」

「これだけあおれば二人とも本気出すだろ?本気の大精霊二人に防げないなら城の中にいても俺は終わりだ。ま、危なくなったら早々に逃げるし」

「そうなのですが‥‥その‥」

「なに?ファウナさん?」


 ふぅとファウナがため息を吐いた。


「過去精霊王が野獣で命を落としたことはございます。如何に最強の精霊王でも大精霊の様に不死ではございません。その点だけご留意ください」

「‥‥‥‥はい、わかりました。気をつけます」


 大精霊は不死だが精霊王はそうではない。召喚された魂だから?というよりも大精霊はこの世の理ということだろう。元人間が召喚されただけで五百年以上生きられるのなら十分チートなのだが。


 そこへデザート皿を下げて戻ってきたルキナがばふんと朔弥に抱きついた。


「だいじょうぶ。サクヤしなない。ルキナそばにいる」

「うん、そうだな。気をつけるよ」

「サクヤさいきょう。イチバンつよい」

「ハハッ だといいんだけどな」


 ルキナが笑顔で頷いた。


 精霊魔法が使えない。でもまああの凶暴な二人がいれば大丈夫だろう。


 こういうフラグを立てた場合、得てして楽観と逆の展開になりがちなのがファンタジーである。


 三日後、ヴァルナの言う通り外出は魔法が使えるようになってからにすればよかった、と後悔する羽目になろうとはこの時朔弥は思いもよらなかった。

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