027:精霊界最強決定コンペ開催!①




「ぐぅッ そんな楽しいことがあったのか?!なんで呼んでくんなかったんだよ?!」

「呼んだのに来なかったヤツは誰だ?」


 夕食後。朔弥の隣でダイニングテーブルに突っ伏したニクスが悔しそうにテーブルをだんだん叩いている。その正面にはデザートのいちごアイスを食べるヴァルナとルキナ、抹茶アイスのファウナが座っていた。


「痛恨の失態!人形ヒトガタ出来るとこ二回も見逃した!」

「おしゃれ三昧でとーっても楽しかったですわ。ミズキも可愛らしくなったしおやつ天国ですし今日は大満足ですのよ」


 ヴァルナが背後を見やればお仕着せ姿で左右お団子に髪を結ったミズキがにこりと微笑んだ。ミズキは水属性だが今後はルキナ専属のファッションコーディネーターとなった。

 ルキナは早速ミズキとヒカル合作で作り出したボックスプリーツのスクールテイスト上品ワンピースを纏っている。太いベルトがアクセントでルキナも気に入ったようで喜んで着ていた。朔弥の好みど真ん中、正統派お嬢様ワンピースに朔弥もガッツポーズだ。あの研究会で朔弥の好みを深く理解した賢明なミズキの配慮がひっそりと成した技である。


 ただ一人、闇の大精霊だけが不満を吐き出している。


「おやつ天国とか!ズルい!あたしだって人型成形見たかった!あたしだけのけ者かよ!」

「わざとじゃない。あれは場の流れだったし。来なかったヤツが悪い」

「おしゃれ研究会って言われて誰がほいほい行くってか?あたしの性格わかってるなら何も言わずに呼べって!」

「知ったことか!懲りたなら今後は参加意識を強く持てよ!」

「今後って!次があるのかよ?!ねぇだろ?!ちくしょぉぉぉ!」


 ニクスは頭を抱えて絶叫ののち、力尽きてテーブルに突っ伏した。


「だいたいよぉ、おしゃれの景品がおやつ?しかもサクヤジャッジ?そんなぬるゲーあたしでも勝てたじゃんか。ズルすぎる」

「ぬる?!俺はそんな簡単じゃないぞ?!」

「嘘つけ。ルキナがあたしの服着ても10点つけるだろ?チョロ過ぎんだよ」


 ルキナがニクスの服?露出多めの黒い服をルキナが着ている様子を想像する。白い肌に黒い服。濃いめの口紅をのせれば幼くも妖艶な美女になるだろう。


「あ、悪くないな」

「げッ マジか?勘弁してくれよ!冗談も言えねぇ!」

「そこはルキナの素晴らしさを讃えろよ。なんでも似合うんだから」

「だ・か・ら!ぬるゲーだっつーてるだろ!このジャッジで!怖ッ マジ怖ッ」


 ぞぞぞとニクスが身震いしている。そこへヒカルが暖かいお茶の入った湯呑みを配って回った。本当に気配り少年だ。


「ヒカルサンキュ。夕飯の後はあったかい茶だな」


 以前は白い手が茶を出していたな。ついこの間も‥‥


 そこでふとこの間会った精神の大精霊を思い出した。自分ので一方的に面会は終わってしまった。朔弥は向かいのファウナに視線を送った。


「ヴァルキリーはあれからどうなんだ?」

「どう‥とは?」

「えっと、元気にやってるのかな?」

「特に連絡もございません。あちらは時の流れが早うございますので忙しくやっていましょう」

「ならいいが」

「呼び寄せることもできますが」

「忙しいんだろ?そこまでじゃない」


 以前ルキナの夢で見た下界。そこに暮らす人族は文化は違うが朔弥のいた常世と同じ一族に見えた。


「下界か‥一度行ってみたいな」

「陛下は肉体をお持ちではありませんので‥それは」

「ああ、そういえばそうだった」


 もう肉体はない。自分は最早ヒトではない。


「もう思い残すこともない」


 朔弥はそっと呟いてふぅと息を吐く。そして立っているヒカルとミズキに視線を送った。頷いた二人も末席についた。


「全員揃ったか。じゃあ本題だ」

「あら?まだ何かありまして?」


 アイスを食べ終わりお茶を啜るヴァルナがご機嫌で小首をかしげている。


「食育におしゃれ、直近の問題は片付いた。まあ食育については今後も継続課題ではあるが」

「まだやんのか?水田か?任せろ!いつでも耕してやるぜ!」

「それはもういい!課題はお前らの意識改革!ええぃ話を脱線させるな!そこでだ!もう一つの懸案事項!外に行くぞ!」

「外‥でございますか?」


 向かいのファウナがぴくりと反応した。


 朔弥が精霊界に召喚されて一ヶ月が経った。なかなかに色々な出来事があったが実はまだ外の散策が出来ていない。ファウナの時空魔法でご近所を散歩した程度である。それも代わり映えしない景色ばかり。


「窓からだと森と山しか見えんからな。小精霊たちの話だとかなり遠くにだが湖も海もあるらしいじゃないか。こうなるとアレだ?アレが作りたくなるだろ?」

「「アレ?」」


 薄い反応の黒紫大精霊二人に朔弥がテーブルをバンバン叩いた。


「地図だよ!」

「「チーズ?」」

「違う!伸ばすな!地図!マップだって!この世界の地図が欲しくなるだろうが!!」



 朔弥が小精霊たちに話に聞いたところによると、この世界は朔弥が召喚されたことで作り変えられたという。以前の世界は前の王が作ったもの。今の世界は朔弥が作ったものということだ。それ故に誰もこの出来立ての世界の全容がわかっていない。


 前の世界はいけどもいけども砂丘とモンスターという砂漠地獄だったという。今回は緑があるだけマシというのが小精霊たちの一致した意見だった。


 砂漠?どんだけ枯れた王だったんだ?

 だが今回は前人未到の大陸があるという?

 これは行ってみたくなるってもんだ!


 朔弥は大学の友人と組んだオンラインゲームのパーティではダンジョンのマッパー、地図じみ職人であった。

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