026:ルキナドレスアッププロジェクト④
「ミズキ‥」
「ミズキ‥ステキな名前‥」
ヴァルナがうっとりと囁いた。
朔弥の名付けで水の少女の危うかった輪郭が安定する。光が落ち着くと十四歳くらいの恥ずかしがりな少女が現れた。頬を染めスカートを摘んでおずおずと朔弥に腰をかかめてみせた。ヴァルナが涙目で喜んでいる。お仕着せの少女に抱きついた。
「よかった‥よかったわねミズキ」
なんとか上手く出来た。安堵の息をついた朔弥にファウナが声をかけた。
「お見事でございます」
「途中どうなるかと思ったけどうまくいってよかったよ。ルキナが手伝ってくれたおかげだ。ありがとな」
ルキナがいなければミズキは出来上がらなかった。そう確信出来た。それくらい危うかったのだ。
ルキナの頭を撫でればルキナがくすぐったそうに微笑んだ。
「二人目‥もう偶然ではないのですね」
「ファウナさん?やっぱダメだった?」
「そうではございません、ファウナは感動しております」
「感動?」
ファウナがにっこり微笑んだ。初対面の頃は硬かったファウナに最近よくみられる笑顔だ。
「これほど精霊王の力を駆使された王君は今までおられませんでした。素晴らしいことです」
「そう‥なのかな?」
まあ?確かに好き勝手やってるような?
いいのかなこれで?
「本当に素晴らしいですわ。ありがとうございます」
ヴァルナがスカートを摘んでミズキと共に膝をおり
「いや、途中危なかったし。ヴァルナも助けてくれたから出来たんだよ」
「いえ、私は何もしておりません」
「え?」
その言葉に今度は朔弥が目を瞠る。そんなはずはない。
「いやだが、水の小精霊が‥」
「あれはサクヤが集めた小精霊ですわ」
さらに唖然とする朔弥にヴァルナが閉じた扇をぽんと打ってみせた。
「精霊王は全ての属性を持っていますから慣れないうちは一種類だけ小精霊を呼ぶことが難しいですわ。でもサクヤは直前に触れた小精霊の影響で属性が変わるみたいですね」
「属性が変わる?」
「ええ、先程はミズキの手に触れたから朔弥の属性が水属性に変わってました。ですからサクヤの呼びかけに水だけが応じたのです。精霊魔法も使えましてよ」
「え?そうなの?」
「試してご覧になります?どうぞお手を。水をイメージして」
促されて右手を差し出した。そこにヴァルナの手が重ねられた。ヴァルナに触れられ体の中を水の力が駆け抜ける感覚がある。これはいける!と公園の水飲み場でほとばしる水をイメージしてみるも何も起こらない。出来そうな気がしたのだが。これはルキナの成長熱の時の氷と同じだ。
朔弥が右手を覗き込んだ。
「これは‥以前も試したがダメだった」
「あら?おかしいですわね。属性の反応はありましたわ。確かに変わって」
「サクヤ、みず」
ルキナが朔弥の左手を握った。その途端、朔弥の右手から鯨の潮吹きのような水がぶしゃぁと吹き出す。右手を覗き込んだ朔弥と隣のルキナに水がぶっかけられた。
「うわぁァッ なんだ急に!」
「陛下!!」
「あらあら」
「びしょびしょ」
朔弥とルキナがずぶ濡れになってしまった。ヴァルナにも水しぶきが飛んだが何かに遮られたように水はヴァルナを避けて弾け飛んだ。朔弥とファウナがうわぁぁッと絶叫する。
「ルキナ!ごめん!水浸しだ!せっかくのドレスが!」
「それよりも!陛下のお召し物が!」
「俺はいいから!ルキナの着替えを!」
「いえ!お二人とも湯を!ヒカル!急いで湯の準備を!」
「ファウナさん落ち着いて!二人一緒に風呂に入れる気?!」
「もも問題ございません!ささ!」
「うわぁぁッ 問題大ありだって!目が怖いッ 勘弁してよ!」
「風の小精霊に乾すように言えばよろしいのではなくて?」
「あ、そうか!ナイスヴァルナ!風の!来てくれ!」
冷静なヴァルナのアドバイスに朔弥が風の小精霊を召喚するもイナゴの如く小精霊が部屋にわっと押し寄せてきた。お約束のぎゅうぎゅうである。
「うわッ 風だけでいいのに!」
「今は属性が違いますわね、そういえば」
「もう!先に言ってよ!」
お世話したがる他の小精霊を
「ひどい目にあった」
「どうやらサクヤは精霊魔法のコントロールはイマイチのようですわね」
「イマイチ?そうなのか?」
朔弥が顔を
「ヴァルナ、陛下にそのような口は」
「あら、失礼いたしましたわ。では言い換えましょうか?」
扇で口を塞いだヴァルナがにこりと微笑んだ。
「ぶっちゃけますとポンコツですわ。全ッ然使いこなせてません。てんでダメダメ。全ての属性を持っていて小精霊にこれほど慕われて精霊力がたんまりあるのに役立たずってヤツですの?と——っても残念ですわ」
ヴァルナがグサグサと毒舌攻撃を繰り出してくる。それらが全て朔弥に
「そ‥それほどに俺はひどいのか?」
「まあ魔法以外の小精霊の召喚や使役は出来てますし魔法は今後の訓練次第でしょうか。それまではルキナが補ってくれましてよ?」
「ルキナが?」
ヴァルナがルキナの頭を撫でる。ルキナがこてんと小首をかしげた。
「この子はこれでも光の大精霊です。魔法制御は心得てますからルキナをお側に置くとサクヤでも精霊魔法が使えると思いますわ」
「ルキナが?ああ、だから」
ヒカルの体を作る時も安定していた。さっきも手を繋いだらミズキが出来上がった。あれはルキナが手伝ってくれたから?そう言われれば色々と思い当たる節があった。
「つまりルキナがそばにいれば問題ないということか?」
「そうですわね。ルキナに触れてもサクヤの属性は光に変わらないようですし。ルキナをお手本にしたら良いですわ」
「そっか。じゃあルキナに色々教えてもらおうかな?」
「ルキナ、サクヤといっしょにいる」
「ん。そうだな」
二人でにこりと微笑み合う。甘い雰囲気のところでヴァルナがコホンと咳払いをした。
「ラブラブなとこになんですけど?私のスイーツは冷蔵庫にあるんですの?ミズキにも食べさせてあげたいですわ」
「あー、そういえばそういう約束だったな。荒稼ぎしやがって。好きなの持ってっていいぞ」
「フフッ ではキッチンに参りますわ」
「三時か。おやつの時間だし茶でも入れるか」
いつの間にかヒカルの姿が見えない。きっとキッチンでお茶の準備をしているんだろう。冷蔵庫に仕込んであったスコーン生地の焼けるいい匂いもしてきた。ヒカルは気配り少年だ。
その日のティータイムは英国式アフタヌーンティーとなった。牛乳から煮出しシナモンスティックを添えたロイヤルミルクティ、茶受けには焼きたてスコーンに生クリームとメープルシロップ、朔弥特製ジャムを添えている。
初めてのミズキの食事。ミズキは嬉しそうにスコーンをほおばっていた。
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