007: だいせいれいがあらわれた!(たたかう/▶︎えづけ/にげる)①




 召喚されてきて二週間が経った。


 朔弥は毎日キッチンに立っていた。


 ルキナが食べられそうなメニューを考える。美味しくて見た目も良く栄養もある。育ち盛りはバランスも大事だ。ルキナは何でもよく食べた。好き嫌いなく綺麗に食べてもらえると作り手も嬉しいものだ。


「陛下、本日も一段とイキイキとしておいでですね」

「ん?毎日充実してるよ?やっぱりメシは大事だね。医食同源!喜んでもらえる仕事があるってのもいい!」

「それはようございました」


 コホンとファウナが咳払いした。


「ところで陛下、そろそろこちらの生活にも馴染んでいらしたようですし、オトモダチを増やしてはいかがでしょう?」

「え?なんで?いらないし?ルキナいるし?」

「その‥何か違うように思うのですが」

「この間お茶会したし?オトモダチいなかったし?それにルキナで手一杯。これ以上面倒見られないし」

「いえ‥そこがもう‥なぜ王君がこれほどお世話を‥」

「好きでやってるんだからいいだろ?」


 ファウナが嘆息しつつ目元を覆う。


 ルキナの服を毎朝コーディネートし三食を準備する。朔弥の一日は可愛いルキナのお世話で忙しいのだ。


 今朔弥たちがいる部屋はリビングダイニングとして朔弥が作り出した部屋だ。最初にあてがわれた部屋は埼玉県にあったアリーナほどの広さがあり一向に落ち着かない。部屋は狭いに限るが朔弥の持論だ。

 キッチンの壁を取っ払い十五畳間程度のフローリングの居室を追加で繋げてソファとダイニングテーブルを置いている。


 アリーナの中にぽつんと壁で仕切られた部屋がある。リフォーム展示場のような部屋。扉さえあれば壁はいらないのだが違和感が酷いため朔弥が無理矢理壁を作り込んだ。扉だけでは部屋の存在感がない。


「ルキナに色々教えたいんだけど全然手が足りないんだよ。ルキナのポテンシャルならもっと賢く可愛くなるはずなんだよな。もっと似合う服とか髪型とかもあるだろうし。ファッションに詳しい人いないかな?」

「ふぁ?」

「あ、そうだ!ルキナの部屋を作ってあげようと思ってたんだ!どんな感じにしようかな?えっと?紙とペンある?お、サンキュ」


 白い手から紙とペンを受け取り朔弥は何やら書き出している。白い手ともすっかり息が合っているようだ。サラサラと部屋の間取りを描く朔弥の手の動きをルキナが興味津々で見ていた。


「二間にしよう。寝室と私室。天蓋付きベッドにソファにカーテンはレースの可愛いやつ。こんな感じでできるかな?」


 精霊は眠ることはないから寝室はいらないのだがこれまでの常識でつい動いてしまう。白い手が親指を立てる様子に朔弥は嬉しそうだ。そこへ強引にファウナが割り込む。


「陛下、そうおっしゃらず。他の精霊にも目を向けてくださいませ」

「別に話も合わないし?無理にオトモダチになることもない。なんかギラギラした目で見られてもね。俺が食われそうだよ」

「話が合えばようございますか?」

「合えばね。誰かいるの?」

「おります。精神を司る大精霊ならばきっと」

「精神?」


 話半分で聞いていた朔弥が顔を上げた。火や水などの自然現象や物質の精霊がいるのは知っていた。側女を増やすつもりはないが、精神を司るという変わった大精霊に朔弥は少し興味が湧いた。精神の大精霊。それは人間を司るということだろうか?


「人の心を理解する大精霊です。現在下界で守護精霊を担っております」


 下界。朔弥がいた常世とはまた別の世界。常世より下界の方が精霊界と距離は近いらしい。


「守護精霊?」

「下界の召喚士を守り増やす任でございます」

「あぁ、精霊を召喚するっていう召喚士サモナー?」


 下界には召喚士なるものがいると以前ファウナから聞いていた。百年前に絶滅した一族。それが最近突然変異で誕生したという。召喚士がいると小精霊が下界に行き来出来るらしい。


「今ちょうど戻ってきております。少しお話されてはいかがでしょうか?」


 人の心を理解する。他の精霊よりは話が通じるかもしれない。


 精霊界についてファウナから説明を受けているが、授業のような説明ではよくわからない。精霊界の情報がとにかく少ない。出来れば直に生の情報を聞きたい。そういう話をぶっちゃけでできる相手が欲しいと思っていたところだ。


「いいよ?どこにいるの?」

「いえ?こちらに参内さんだいさせますので」

「いいって、散歩がてらだ。ルキナも来るかい?」


 笑顔の朔弥が差し出した手にルキナが手を伸ばした。二人の仲はとても良い。常に行動を共にする。だが男女のそれではない。恋情がない。強いて言うなら下界で良く見る親子?仲の良い兄妹?それでは困るのだ。


 改めてファウナがふぅと息を吐いた。


「ではご案内いたしましょう」

「え?ファウナさんはいいよ、場所を教えてくれれば勝手に行くし?」

「そういうわけには参りません」

「なら俺らの会話に入らないでね。あっちが何を言ってもファウナさんは口出ししちゃダメだから」

「はぁ‥かしこまりました」


 ファウナは少し躊躇うように視線を迷わせた。



 


 案内されたそこは朔弥のいる城からさほど離れていない花園だった。


「時空魔法を使います」

「時空魔法?」

「空間を歪める魔法です。陛下もお使いでした。安全な魔法ですのでどうぞご安心を」


 ファウナが手をかざした先の空間が歪む。空間に穴が開いて向こう側に違う景色が見えた。


 ん?ワープ?SFでよくあるようなやつか?

 だがこの手のヤツは暴走するというテンプレが‥

 安全って言われてもねぇ


 二の足を踏んでいたがルキナとファウナがさっさと通り抜けてしまった。ルキナが向こう側から朔弥の手をひこうとしている。ここまでされてビビるのもカッコ悪い。仕方なくチキン朔弥もビクビクと通り抜ける。


 穴をくぐり抜ければそこは外だった。見上げれば先ほどまでいた城が見えた。時間をかけずここまで辿り着けた。

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