031:精霊界最強決定コンペ開催!⑤




「ヨナおんなのこ」

「え?マジが!こんな名前でますますごめんな!」

「ヨナ、なまえよろこんでる。のせてくれるって」

「いいのか?だが流石に大きさがむ」


 無理と言いかけたところでヨナの体がずんといきなり大きくなった。小学生サイズの鳥がいきなり小型ジェットサイズになって朔弥が仰反る。


「デカッ」

「鵬はそもそも国を覆い隠す程と伝承がございます。これも仮の姿なのでしょう」


 国を覆い隠す?デカすぎて意味がわからない。躊躇いつつも巨鳥の背によじ登る。羽の付け根に窪みがありそこに腰掛ければ座りが安定した。朔弥の前にルキナが腰掛けた。ファウナ、ヒカル、ミズキは空を舞っていた。


「飛べないサクヤの乗り物も確保できましたしこれで出発できますわね?」

「その修飾語いらんだろ。なんか腹たつ」

「飛べるようになったんだからいいだろ?早く行こうぜ」

「クェェ」


 巨鳥がふわりと舞い上がった。神鳥の羽ばたき一つで一気に雲を突き抜けた。吹き付ける風に朔弥が手をかざし顔を顰めるも風はすぐに落ち着いた。ルキナが手をかざしている。雲が流れ風が自分達を避けていく様子が見える。


「風よけしてくれたんだな。ありがとな」


 振り返ったルキナがにこりと微笑んだ。成長熱以降、ルキナの口数はまだまだ少ないが感情表現は豊かになっていた。


 上空まで舞い上がり見下ろした世界に朔弥は息を呑んだ。一部山もあるものの地平線の果てまで森が続いている。だが文明の気配が全くない。振り返り見下ろせば自分のいた城だけが異質に見えた。その城も急激なスピードで遠ざかっていく。鵬は相当な速さで飛んでいた。


「精霊界‥人は本当にいないんだな」

「おりません。この地には王を守る結界が張られております。結界内は生命反応もありませんのでしばらくは安全でしょう」

「結界か‥どうりで何もいないと思った」

「あの結界を超えます」


 ファウナの声と共にオーロラのようなシールドを巨鳥が突き抜けた。一気に新しい視界が開けた。


「これが精霊界‥外の世界‥‥」


 やはり緑の広がる大地は同じ。だが遠くに山と湖らしきものが見える。そして渡り鳥の群れが見えた。初めて見る生き物に朔弥は目を輝かせた。


「すごい!鳥?生き物がいる!」

「ああ見えて凶暴だからな?近づくんじゃねえぞ」

「凶暴って、小さいだろ?おどかすなよ」

「あれは遠いですもの。実際は大きいですわ。飛竜は肉食ですし近づけば丸呑みされましてよ」


 鳥じゃなかった。朔弥は口を閉ざした。見えるもの全て疑った方がいいのかもしれない。


「危険なものもおりますが他にも生き物が多くおります。これは陛下の御力の強い証でございます」

「証?」

「これほどの自然豊かな大地に生き物、作り出す精霊力が強くなくてはこうはなりません。本当に美しく素晴らしいことでございます」


 感嘆するファウナに朔弥は苦く笑った。


 褒められた?まあ?以前の砂漠に比べたらマシ?

 だがちょっと大袈裟だろうに。


 ファウナはとにかく朔弥を褒める。褒めて育てる帝王育成法なのかもしれないと朔弥は思っている。だが過剰な期待は荷が重い。まるで朔弥が王であることから必死に逃さないようにしているみたいだ。その必死さが怖い。


 そう思う自分は卑屈でヘタレだな。

 褒められて素直に喜べもしない。


 手元のボードにざっと辺りの様子を書き込んだ。鳥瞰ちょうかん図がリアルで描けるというのもすごい体験だ。


「サクヤ、すごい。えがじょうず」

「ありがとな」


 ふと、ルキナに褒められると素直に喜んでいる自分に気がついた。


 あれ?なんでだ?ファウナさんと何が違う?

 ルキナは純粋に褒めてくれてるからか?


 訳のわからない状況に動揺し視線をあげれば遠くに青い水平線が見えた。


「湖見えてきたんだけど?行っとくか王サマ?」

「湖?もちろんいくだろ!」

「クェェ」

「あそこのさかなとみずくさおいしいって。オススメ」

「お‥オススメされてもなぁ。ルキナはヨナの言うことがわかるのか?」

「なんとなく。ぞくせいいっしょ」

「ああ、なるほどね」


 今まで出会った光属性は全て白かった。見た目の色である程度属性が絞られるようだ。


 湖畔に降り立った巨鳥は朔弥たちを下ろし一声鳴いて湖へと飛んでいった。


「ヨナどうした?」

「おなかすいたからゴハンたべてるって」

「ゴハン?」


 ヨナが湖の水面に降り立ち勢いよく水中に頭を突っ込んだ。しばらくして顔を水から抜いた口には巨大な魚を咥えていた。くわえる魚は朔弥よりも優にデカい。さらに見た目がなぜかギラギラ七色で目が剥けていてグロい。口から覗くギザギザ牙がピラニア級だ。それを巨鳥がごっくんと丸呑みした。自分のカッコいい召喚獣が目の前で巨魚を踊り食い。ドン引きである。


「ああああ?!」

「お?ここザコいるんな?いいねぇ」

「あらステキ」

「ス?ステキ?!」


 あらステキと両手を合わせて微笑むヴァルナの言の意味がわからない。脳内でザコが雑魚とまんま漢字変換された。巨魚を雑魚と呼ぶのも納得いかない。


「はぁ?!ステキってなんで?!」

「あの魚、旨いんだよ」

「旨い?!あのデカグロいの食うのか?!てか雑魚って名前?」

「あれグロいか?さばいちまえば同じだろ?食っても旨い。ザコは雑魚。弱いからいつも食われまくってる」


 あれで弱い?捕食側がさらにデカいと言うこと?!ヨナといいここは太古の恐竜時代か?!


 ヨナが嬉しそうにひょいぱくひょいぱくと巨魚を飲み込んでいる。あの魚が旨いと言うのは確かかもしれない。エグい映像に朔弥はそっと目を閉じた。


「あー、いいなぁ。食ってんの見てたらなんか腹減ってきた。もう弁当食おうぜ」

「あれを見て食欲に連結させるヤツの気が知れんし。まだ早いだろ?散策も全然できてないのに」

「出だしで待たされましたのよ?召喚獣なんてあらかじめ準備しておくべきですわ」


 痛いところを突かれぐぅと朔弥が押し黙る。だがこの展開も想定内だ。ここは草も背が低く見通しがいい。何か襲って来ればすぐに逃げる。何がいるかわからない湖には恐ろしくて入れないがピクニックランチにはちょうどよさそうだ。


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