032:精霊界最強決定コンペ開催!⑥




「しょうがない。食っちまうか」

「こ?こちらででございますか?」

「見晴らしもいいし何か居てもここならすぐに気がつける。ヤバかったらすぐ逃げよう」

「まあ‥そう‥でございますね」


 ファウナがなぜか口籠る。朔弥はこちらの世界の事情はわからない。何か間違っていれば進言してくれて構わない。そうファウナに言ってあるが今は間違いかどうか躊躇っているようだ。一方で大精霊二人はなぜか火炎を吐いている。


「いい場所じゃね?これはデカいのが釣れるんじゃねぇの?」

「まあ抜け駆けはなしですわ。順番はじゃんけんで決めておきましょう?」

「いいだろう。あたしはじゃんけんでさえ負けないからな」


 大精霊二人のじゃんけんは延々とあいこが続いている。気が合いすぎだろう。その傍でヒカルが時空からブランケットを出して敷いている。弁当箱も出してきた。


「おーい、集まれ。弁当食うぞ」

「チッ 決着は弁当の後だ」

「いいですわよ」


 やる気の二人だったが弁当箱を見て絶句していた。


「え?マジ?これだけ?」

「ずいぶんと‥」

「小さい言うなよ。幕内弁当だ」


 朔弥渾身の気合いで作ったおかずを詰め込んだ幕内だ。仕切りを入れて小分けにしたに色とりどりのおかずが詰め込まれていた。一人一つずつ弁当箱を配る。その箱を目の前に大精霊二人は愕然としていた。


「これが伝説の弁当‥嘘だろ?とり唐ふたつだけ?」

「スイートポテトも小さいですわ」

「入れろと言ったから入れたのに!文句が多い!伝説ってなんだよ!」


 ルキナ、ファウナ、ヒカルにミズキは喜んで食べている。あれが適量なのだ。この二人がおかしい。


「こんなの秒殺だろ?!腹の足しにもならんって!ハイ終わり!」

「モチベーションが落ちますわ。野菜が多いですし。楽しみにしていたのに」

「幕内作ってみたかったんだからいいだろ?!お前らは目で見て楽しむとか風情を感じるとかないのか?!野菜残すなよ!」

「おべんとう、キレイ」

「だよな?ありがとうな。ルキナはなんでも食べていい子だなぁ、よしよし」


 でれでれっとデレる精霊王に大精霊二人は文句たらたらだ。だがこの展開は想定内だ。目を閉じた朔弥がふっと笑みをこぼす。


「仕方ない。第二ラウンドだ」


 朔弥の視線を受けてヒカルが頷いた。時空から寸胴ずんどう鍋を出してくる。


 一緒についてきていた小精霊のお手伝いし隊がバーナーコンロを設置、早速火を起こし揚げ物鍋を置いている。火の小精霊が起こす強力火力で早くも漬け込み肉と餃子投入だ。もう一つのコンロではカレーがぐつぐつしている。運動会でよく見かける帆布製テントが立てられ横長会議テーブルが組み立てられる。そこへ一升炊きの炊飯ジャーが二台ガツンと置かれた。クーラーボックスからは大皿のスイートポテト。


 野原の真ん中に突如現れた野営調理部隊。

 これはもはや災害時の炊き出しである。


「こんなことだろうと思ってお前ら用に寸胴カレーと揚げ鍋を準備してきた。揚げ物は二種類のメニューを用意した!唐揚げはザンギ!さらに揚げ餃子だ!さあ!じゃんッじゃん食え!そして働けよ!!」

「食べられるのは二つにひとつです、じゃなくて?両方食えるのか?!ザンギ!揚げ餃子!」

「スイートポテトもありますわ!」

「何事も万全の準備をする俺に抜かりがあるはずないだろうが!餃子は野菜カウントにしてやる!」

「やるな王サマ!ザンギカレーに餃子カレー!あたしは今猛烈に感動している!!」


 ただこれが弁当かどうかというあたりで疑問がていされるところだ。ファウナの深いため息が聞こえる。

 大精霊二人の相手を小精霊たちに任せ朔弥が腰を下ろした。


「これで静かに弁当が食える」

「サクヤ、これおいしい」

「ん?里芋の煮付けか、渋いもん好きになったな」


 湖畔を見ながらの幕の内弁当ランチ。辺りはフードファイター二人の歓喜の声を除けば静まり返り穏やかな時間だ。爽やかな風が吹き草のなびく音がする。キッチンに籠りがちな朔弥は久しぶりの自然を満喫していた。


「たまにこうやって外に出てくるのもいいな」


 だがファウナが落ち着かない。キョロキョロと辺りを見回している。


「どうしたのファウナさん?」

「いえ‥その‥大丈夫だとは思うのですが」

「何かあった?」

「ええっとですね。ここは‥湖畔でして」

「うん?そうだね?」

「あの湖には‥雑魚ザコが大量にいまして」

「うん?みたいだね?」


 ヨナはまだ湖でグロい巨魚を踊り食い中である。旨いというからには大好物なのだろう。あちらも大食漢だ。それを見てファウナが目を泳がせる。


「つまりは‥ここはあるモンスターの餌場の可能性がありまして」

「え?」

「その‥雑魚を好むドラゴンがおりまして‥」

「え?」

「こういう見晴らしの良い場所は身を隠せないのですぐ見つかってしまうというか。その‥あとカレーと揚げ物の匂いも風に乗るというか」

「‥‥‥‥え?」


 風向きがかわり風に乗ってふわりと匂いがした。何か生臭い爬虫類のような匂い。見える限りで姿は見えない。どこにいるかわからないが匂いでわかった。先程はしなかった匂い。近づいてきている。そして辺りが静かすぎた。虫の音も鳥の声さえ聞こえない。

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