030:精霊界最強決定コンペ開催!④




「やれというのなら試しにやってみるが。どうやるんだ?」

「小精霊の時と同じように呼んでみればいいんだよ。ビビッときたヤツが駆けつけてくるし。あ、鳥を呼べよ?じゃないと空から陸からビッグサイズのイナゴの襲来だ」

「ヤバいヤツがこないんだろうな?」

「だから来て欲しそうなヤツを呼ぶんだよ。具体的にな」

「えっと?」


 来て欲しそうなヤツ?朔弥がそっと目を閉じる。ルキナがぎゅっと朔弥の腕に抱きついた。


 ゾンビ系はゴメンだ。ドラゴンもパス。あくまで普通の鳥がいい。ふわふわの。でも猛禽類はちょっと怖い。ペンギンダチョウはダメ。飛べるヤツだ。小鳥じゃ俺が乗れないからそこそこは大きい鳥か。穏やかな鳥がいい。気のいい優しいやつ。撫でられ好きで甘えん坊。何より健康で、ムダ鳴きしないで行儀よくて、好き嫌いなくよく食べてよく懐いてくれたらいいなぁ


 ‥‥あれ?これじゃ理想のペット像じゃね?


 そんなことをぼんやりと考えてふと鳴き声が聞こえた。


「クェ」

「くぇ?」


 目を開けた朔弥の前に白い鳥がいた。背は朔弥の胸の高さまである首の長い白い鳥。姿は首と足がちょっと短いタンチョウ鶴のようにも見えるが真っ白でふわふわの尾がキラキラと美しい。それがつぶらな瞳できょとんと朔弥を見上げていた。だが朔弥が乗るには小さすぎる。

 ううん?と眉間に皺を寄せる朔弥と鳥が見つめ合うもルキナを除く周りの大精霊は息を呑んでいた。

 

「えっと?こいつは?」

「ホウ」

「ホウ?」


 この鳥の名前か。ルキナにホウと呼ばれ鳥が目を細めて小首をかしげている。


 こいつが俺の召喚獣?

 あ、でもこいつ、愛嬌があって可愛いかも。


 だが大精霊たちの反応は違っていた。絶句して鳥を見つめている。


「これは‥‥確かに。間違いありませんわ。ホウですわね」

「えぇ、えぇ、本当に。これは見事なでございますね。流石でございます」

「あたしも白は初めて見たぜ。すげぇ」

「え?は?イマナント?」


 朔弥が耳を疑ってガチンと固まった。


 ハク?ホウ?俺の召喚獣が?聞き違いかな?


 だがハクホウが脳内で漢字変換され聞き違いではないと確信し朔弥は愕然とした。


「神鳥ではホウホウがおります。鵬は巨鳥でその翼は千里を越えると伝えられております。鵬そのものも大変珍しいのですが白い鵬は初めてでございます」

「へ‥へえ?」


 あまりのことで朔弥は生返事をする。どうもすごい鳥のようだ。巨鳥というには小さいが確かに見た目真っ白でシュッとしていてカッコいい。小さいのはまだ子供だからかもしれない。


「お前‥ホントに俺の召喚獣?」

「クェェ」


 首を振ってそうだと鳴き声を出す。朔弥の手にすりすりと頭を擦り付けた。朔弥の言葉を理解しているよう、希望通り甘えん坊だ。


 だが呼び名がいけない。おそらくこちらがオリジナルなのだろうがどうしてもアレを連想してしまう。その連想のまま自分がそう呼んでしまうのもなんとも忍びない。


「すまない。その‥コイツに名付けてもいいかな?」

「命名なされますか?!王君から名を賜れるとはこのハクホウも喜んでおりましょう」

「えっとね、あまりその名前連呼しないでくれると嬉しい」


 その音だとホントにアレしか連想しない。脳内の映像は本日の結びの一番だ。そうなるともうそのイメージでしか見られない。


 神々しい鳥のはずなのになんだが目が細くなったような?顔も丸くなったような?あれ?ちょっと太った?ダメだ!俺が連想するときっとコイツもそうなるんだ!俺の召喚獣!このカッコいいヤツを丸くしてなるものか!!


「えっと、名前!どうか!コイツにカッコいい名前を!‥カッコ‥いい‥なまえ‥」


 だが天から降ってきた名前に朔弥が愕然とする。悪い冗談としか思えない。朔弥の体に震えが走った。


 いやいや?流石にこれはない。違うだろ?他にあるだろ?ない?ないのか?ホントにこれか?!


 散々集中しこれ以上何も出ないとわかり朔弥が落胆する。そして聞こえた名を口にした。


「‥‥ヨコヅナ」

「ん?なんだって?」

「コイツの名はヨコヅナだ!ホンットすまん。もっとカッコいい名前にするはずだったのに。ホントごめんな」


 目の前の美しい鳥を抱きしめて朔弥は拳を握りしめ悔し涙を流す。だが鵬は名前をもらって嬉しいのか目を細めている。朔弥にすりすりと頬づりしていた。


「ヨコ‥ヅ?珍しい発音ですわね?常世の言葉ですの?」

「えっと‥あっちでは最強という意味だ」

「なんだ、いい意味じゃねぇか!よかったな!ヨコヅナ白ほ」

「俺が悪かった!頼む!頼むから繋げて呼ばないでくれぇ!!」


 朔弥が涙目で頭を抱える。名付けでドツボにハマってしまった。これなら名付けない方がよかったかもしれない。

 こうなればもうヤケだ。朔弥が開き直る。


「コイツは白い鵬!名前はヨコヅナ!略してヨナだ!」


 一同が目を瞠る。ニクスから率直な疑問が出た。


「え?せっかく名付けたのになんで略すんだ?」

「そこツっこむなよ!空気読め!愛称だ!名前長いし呼びづらいし短い方がいいだろ?!」

「ですが陛下よりせっかく賜った名でございますし」

「別に長くても大丈夫ですわ。ヨコヅ」

「わーッ 聞こえない!これ以上俺の傷をエグるな!俺が決めたからこれでいいの!ヨナ!カッコいいだろ?!」

「ヨナ、かわいい」

「だよな!ありがとうルキナ!ルキナは優しいなぁ」


 朔弥が涙目でルキナと鵬を抱きしめた。クェェッといい声でヨナも返事をする。白い鵬を撫でていたルキナがポツリとつぶやいた。

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