023:ルキナドレスアッププロジェクト①




「今日皆に集まってもらったのは他でもない」


 ルキナの部屋の真ん中で朔弥がおごそかに声を張る。その前には水の大精霊ヴァルナに光の大精霊ルキナ、そして光属性のヒカルに樹木の大精霊ファウナが立っていた。だが呼び出したはずの二人のうち一人足りない。


「と本題の前に。ニクスはどこいった?」

「来るわけありませんわ?おしゃれなんてなんの足しにもならないって」

「あいつホント脳筋だな!参加意識ないのか?!」


 兼ねてからルキナのファッションに朔弥は物足りなさを感じていた。成長熱を経て見た目十四歳くらいまで美しくも成長したルキナを前にその不満がとうとう爆発した。


「こんッなに可愛いのに俺のファッションセンスでは欠片もルキナのポテンシャルを発揮できてないんだ!もっと可愛くなるはずなんだよ!な?な?そう思わないか?」

「まあ確かに私ほどではないですが可愛らしいですわ」


 しゃあしゃあとマウントを取るヴァルナに朔弥のため息が出た。


「そこ、自分が一番と一言言わないと気が済まないのか」

「事実ですもの。ルキナが一番とおっしゃるのはサクヤの好みの問題ですわ。ちなみに」


 ヴァルナがスパンと手刀で遠く離れたサイドテーブルを真っ二つにして見せた。


「大精霊の可愛いは見た目だけではありませんわよ?力の強さも輝きの一つですわ。陛下はどちらをお望みでしょうか?」

「お‥‥おう?そう‥だな?今日は見た目だけでいい」

「そうですね。ではそちらはおいおい。ルキナはそちらのポテンシャルもありましてよ?」


 おいおい?あんまり強くしないでくれよ?

 ヴァルナ仕込みのルキナはとんでもなく強くなりそう?精霊王の俺がルキナに敵わないとか怖すぎるだろ?


 全く色気のない展開に部屋の隅に控えていたファウナが目元を覆いため息をついていた。


 朔弥がごほんと咳払いする。


「と問題提起できたところで本題だ!今日はルキナを可愛くコーディネートする研究会を開催する!俺をうならせるコーディネートを提案できたら褒美として冷蔵庫の好きなスイーツを進呈しよう!」

「まあまあ!好きなスイーツ?!選べるんですの?!」


 予想通りスイーツ信者のヴァルナが前のめりで食いついてきた。朔弥が心中ほくそ笑む。


「おう、唸らせられたらな?10点で一つ選んでいいぞ」

「そういうことでしたら頑張りますわ!」

「だが俺も簡単じゃないぞ?本気出せよ?」


 大精霊も所詮は食い気。このやる気のないヴァルナをスイーツで釣って本気にさせる。朔弥の作戦だ。


「そうだ、いい子がいるんですのよ。出ていらっしゃいな」


 ヴァルナの背後からふわりと青色の手が現れた。その色は水属性が故だろう。白い手ならぬ水色の手だ。


「この子のコーディネートはとっても可愛らしいのよ?きっとサクヤも気にいるんじゃないかしら?今日の私の服もこの子が選んだんですのよ」

「へぇ‥」


 今日のヴァルナはレースとリボンをふんだんに使ったお嬢様風だ。おしゃれの会ということで気合が入っている。確かに可愛らしい。


 なぜ小精霊がそれほどにファッションに造詣が深いのか。そこを笑顔のヴァルナがネタバラシをする。


「二人でよく本を見てますものね。可愛らしい服が満載ですわ」

「は?」


 ヴァルナは時空の隙間を開いて雑誌を取り出した。ファッション雑誌だ。それも朔弥がいた世界のものだ。雑誌にはスイートロリータ、愛されガーリッシュなど呪文が並んでいた。他にもなぜか恋愛小説も出てくる。ヴァルナは異界の娯楽オタクであった。


「ああああッ これどうやって?!」

「フフフ、企業秘密ですわ。常世のファッションと若者の娯楽は知ってましてよ?サクヤの好みは大体わかっていますし、私の勝利は確実ですわ」

「きったねぇ!カンニングは卑怯だぞ!」


 ヴァルナがさも酷いものを見たように目を見張り扇で口元を隠してみせた。


「まあ?コピーなんてそんな下品なこと致しませんわ。この程度私の些細なカードの一枚に過ぎませんのよ。朔弥のいた世界の文化を理解した上で如何にアレンジしてルキナを可愛らしくするかが腕の見せ所ですわ」

「前の世界には思い残しはない!」

「まあそうですの?ますます参考程度ですわね。まあ大勢に影響はありませんですわ」

「ふん、随分と大口を叩いたな?じゃあ絶対に俺を唸らして見せろよ」

「ええ、ご期待くださいませ。いらっしゃいルキナにヒカル」


 ヴァルナが青い手と共に寝室に引っ込んだ。ヒカルを連れて行ったのは服の具現に使うのだろう。しばらくしてヴァルナが寝室から出てきた。


「では最初の一着。クラシカルゴシックロリータ天使のルキナですわ」


 白いドレスを纏ったルキナが現れ朔弥は目を見張った。元々白い肌に白い髪だがそこに白い膝上フリフリゴシックドレスを着てロングの編み上げブーツを履いている。髪はふわふわにウェーブしていてレースのヘッドドレスが可愛らしい。背中には小振りの真っ白な羽根までついている。


 これぞ本場ゴシックである。

 朔弥が衝撃でガチンと固まった。


 ぐわぁぁッ ゴスロリ!可愛い!なんだこの破壊力は!


「いかがでしょうか?ルキナは色が白いですし黒も似合いそうですわね。色違いで揃えてもよろしいかもしれませんわ」

「い、色違い?!」

「出来ましてよ、ヒカル?」


 ルキナの服が黒くなった。黒だと重くなりがちなゴシックスタイルだが白いルキナなら黒に負けていない。所々白いところも残っているから白黒のバランスもいい。


「ぐぅぅッ 黒もいい!!」

「いかがでしょうか?」

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