024:ルキナドレスアッププロジェクト②




 微笑むヴァルナに思わず10点!と叫びそうになった朔弥だがぐっと自重する。しょっぱなから満点を出してはこの後が流されまくる。ここは少し控えめな点数にして様子を見るべきだと冷静に判断した。


「7点」

「あらあら、お気に召しませんでしたか?似合っていると思いましたが残念ですわ」


 ヴァルナが困ったようにふぅと眉根を下げてため息をついた。


「残念?」

「ファッションは好きか嫌いかですわ。まあまあ好きは嫌いと同義。この服は破棄いた」

「捨てるのか?!勿体無い!」


 慌てる朔弥にヴァルナが扇で口元を覆い目を細める。


「私も捨てるのは忍びないですわ。こんなに可愛らしいのに。でもサクヤが気に入らないようですし」

「いや、その、気に入らないわけじゃ‥むしろメチャクチャ似合ってるし」

「まあそうでしたの?いやですわ私ったら。でしたら10点つけてくださるのなら色違いとセットで差し上げましてよ?」

「おっしゃ!二着10点!!」

「まあ、ありがとうございます!サービスで小物もつけておきますわ」


 ヴァルナがにっこり微笑んだ。ルキナのクローゼットに白と黒の服が掛けられた。


 何やら丸め込まれたようにも思えたがまあ大事の前の小事、些細な犠牲だ。何よりルキナの可愛い服が増えた。

 自分がルキナの服を作ると当然だがつい自分好みのものばかりになってしまう。今回は何がルキナに似合うか、ルキナはどんな服が好きか探る目的もあった。あの大精霊は引き出しも多そうだ。きっと目的は達成するだろう。やはりこの研究会は正解だった!


 そう確信し朔弥が心中鼻息を荒くする。


「はい、では二着目。マリンルックルキナですわ」


 今度は紺色のワンピースを着たルキナが現れた。セーラーカラーにドレープたっぷりのスカートがノスタルジックで愛らしい。スカートの裾とセーラーカラーに白いストライプがアクセントで入っている。白い手袋に白ソックス、ローファがピッタリだ。髪はストレートにしてワンピースと同色のカチューシャをつけている。


 シンプルだが清楚お嬢様風の一着。朔弥のツボど真ん中。着飾っていた一着目との落差もあって朔弥がガツンと打ちのめされた。


「ぐぅぅッ こうきたか!」

「海辺の散歩をイメージしておりましてよ」

「こっちに海ねぇだろが!汚い!汚いぞ!くっそーッ 10点!」

「まぁありがとうございます!サクヤが好きですって。よかったですわねルキナ」


 褒められて嬉しかったのかルキナがもじもじと頬を染めてこくんと頷いた。そのいじらしさにさらに朔弥が悶絶する。


 うッ ヤバイ!服よりもその笑顔が一番可愛とかヤバすぎる!!


「さぁじゃんじゃん参りましてよ?次は仔猫スタイルルキナですわ」


 黒と白の膝丈レースのメイドワンピースを纏ったルキナが現れた。首元には真っ赤なリボンに鈴。髪をツインテイルにして頭に白い猫耳をつけている。どうやっているのか白いしっぽが本物のようにゆらゆら揺れていた。

 あざと可愛い。朔弥が目を瞠る。その破壊力に心臓を押さえるも動揺で動けないほどだ。

 

「コココ!コスプレ?!メイドカフェ?!猫耳は卑怯だろッ」

「そんなことありませんのよ、可愛いが正義ですわ。さぁルキナ、ご主人様に愛らしく鳴いてごらんなさいな」

「にゃぁ」


 すでに仕込まれているのかルキナが手を猫型にして鳴いてみせる。もうこの仕込みからあざとい。


「ぐぅぅッ だからそれが卑怯だと!可愛い!めっちゃくちゃ可愛い!10点!」

「気に入っていただけて嬉しいですわ。サクヤはチョロ‥ゲフンゲフン、ファッションの好みが合いますわね」

「お前今チョロいって」

「ハイ!衣装はまだまだありましてよ?急いで参りましょう。次は浴衣ルキナですわ」

「浴衣?!あざとい!けしからんぞ!いい加減にしろッ」

「あら、よろしいんですの?これもとっても可愛らしいのに。これで一緒に花火に行けましてよ?」

「は?花火?!人の弱みにつけ込んで‥ッ 似合う!10点だ!」

「フフッ でしょう?」


 ヴァルナが手を合わせにっこりと笑う。その後も出て来る服全てが可愛い。どれもルキナにすごく似合っている。だが10点をつけないと捨てられる。それは忍びない。そうなるともう10点以外あり得ない。

 何より10点がつくとルキナが嬉しそうに微笑んだ。朔弥に似合うと褒められて喜んでいるのだ。その笑顔がまた素晴らしく愛らしい。


 朔弥は腹黒ヴァルナの術に完全にハマっていた。部屋の隅ではファウナがずっと目元を覆いっぱなしだ。


 小一時間もすればクローセットが服でいっぱいになった。


「まぁまぁ、どれも気に入っていただけてありがとうございました。腕によりをかけた甲斐がありましてよ。冷蔵庫のスイーツ足りるかしら?」

「もうこの企画が成功したのか失敗したのかわからなくなってきた」


 朔弥がソファの肘掛けにぐったり体を預けている。テンションが上がりすぎて精神が消耗してしまった。とんでもなく疲れた。


「サクヤ、だいじょうぶ?」


 ととと、とルキナが駆け寄り気遣わしげに朔弥を見下ろした。最後に着ていたピンクのお姫様ドレスのままだ。背には妖精の羽がついていて魔法のステッキを持っている。ダイヤを散りばめたティアラのクオリティが素晴らしい。ルキナが白い手袋越しに朔弥の頭を撫で魔法のステッキを振った。


「サクヤ、おまじない。クタクタとんでけぇ」

「ぐぅッ可愛い!うん!元気になった!」


 だが冷静になればクローゼットの服は普段着で着られる服ではない。部屋で朔弥の目を楽しませるための服、いわゆるコスプレ服だ。実用性が皆無である。


 やってしまった。朔弥が目元を覆い嘆息したところでヴァルナが口を開いた。

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