013:精霊創造①
「ずっと気になってたんだけどさ」
朔弥のリビングダイニング。十五畳の部屋はダイニングテーブルとソファが置かれている。その長椅子に寝転がっていた朔弥は向かいのソファのファウナに話しかけていた。
「あの白い手は何?」
「白い手?ああ、あれでございますか」
現在白い手はルキナと神経衰弱をしている。娯楽用にとトランプを作ってみたらルキナが気に入ったようで神経衰弱を好んでやっている。七並べなら数字の順番を覚えられるし絵合わせは脳を活性化させる。トランプは教材にもなるのだ。
神経衰弱のルール説明の際に試しに三人でやってみた。ルキナの記憶力は素晴らしく朔弥だとボコボコにされてしまったが白い手はなかなかに強かった。白い手はルキナの遊び相手もしていた。その上朔弥の料理の手伝いもする働き者だ。
最初朔弥はビビりまくってホラー扱いしてしまったが今ではなくてはならない大事な助手だ、文字通り。気心が知れているいいヤツ‥もとい、いい手だった。
手しかないのにトランプできるのが謎だがなぁ
「あれは光の小精霊のシュウゴウタイでございます」
「シュウゴウタイ?集合体か?」
「大量の小精霊が手を形作っていると申しましょうか」
小魚が群れて大きな魚になるやつ?あれに意思はないからちょっと違うな。
「あの手にはっきりと意志があるようだけど?」
「小精霊の総意でしょう。あの手自体に意志があるわけではありません」
「え?ないのか?」
「あれはただの小精霊ですので」
ファウナが淡々と説明した。朔弥にしてみれば白い手には相当に愛着が出ていた。確かにただの手だが感情表現だってしている。あれは既に一つの生命体だ。
人に反応して動くロボットを勘違いして擬人化してしまったか?いや、そんなことないぞ?
「いやいや、あれには感情があるって。褒めてやれば喜んでいるし?」
「陛下にお褒めていただければ小精霊は喜ぶでしょう」
「あんなに滑らかに動くのに?集合体なら少しは乱れるだろうに」
「思考が同じ小精霊が集まればそうなります」
やはり朔弥は納得がいかない。ソファから起き上がり膝の上で手を組んだ。
「じゃあさ?理屈で言えばあの手がたくさん集まったら体ができる訳だな?」
「体?手にですか?必要でしょうか。手があればこと足りますが?」
それじゃ実用一点張りだ。面白くない。朔弥の鼻息が荒くなった。
「いやいやいや、いるって。歩く足、考える頭、笑う顔、そして喋って食べる口!お、なんかできそうじゃないか?」
「何でしょうか?」
「白い手の体だよ」
「はぁ?」
「うん、いけそう。なんか出来そうな気がしてきた!」
気まぐれに日曜大工を始めようとやる気になったぐうたらパパのように朔弥が立ち上がった。
小精霊の集め方はなんとなくわかっていた。一緒に料理して気心が知れたせいだろうか。朔弥は意識を集中して小精霊を呼び集める。だが集まってきたのは有象無象の小精霊。イナゴの大群のように朔弥の元に駆けつけてきた。瞬く間にリビングはぎゅうぎゅうだ。
「あー、えっと、来てくれて嬉しいが光だけが欲しいんだよな。悪いけど他のやつはちょーっと端っこによけててくれるか?光は俺の前に残って。いいかー?イチニのサンハイ!整列!」
号令と共に小精霊が光とそうでないものにザザッと分けられる。光以外が多すぎて部屋は満員御礼、窓や扉から溢れ出ていた。
「うーん?もっと欲しいんだけど光の小精霊だけって集めにくいなぁ」
そこへトテトテ駆け寄ってきたルキナが朔弥の足に抱きついた。すると朔弥の目の前に蝶のように舞う光の小精霊が渦を巻いて現れる。
「お、さすがルキナ!いいぞ、もっと呼べるか?」
手を作る小精霊だけでも相当の数、全身を作るには膨大な数が必要だ。朔弥とルキナの周りに集まり始める光の小精霊。それを白い手がじっと見ている。
「よーしもっとこい。じゃんじゃん集まれ。そんでもってこう‥」
朔弥は脳内で人の形をイメージする。
背はそれほど大きくなくていい。あの手の大きさは大人ではない。少年‥歳は十四くらいか?優しいやつだから見た目もそんな感じで。ちょっと垂れ目で人好きして表情が柔らかくて。働き者で気配りの利いた優しい手。人になったらきっと‥‥
目を閉じて朔弥がイメージを膨らませる。その間も光の小精霊は時空の彼方から集まり続けていた。朔弥とルキナの前には小精霊の渦、数が兆を超えた辺りで渦が溶けて光の塊が出来ていた。その塊がぬるりと人の姿を形取り始める。その様子を唖然とファウナが見つめていた。
「まさか‥本当に‥」
かつて何もない世界に天地を創り生き物を造ったとされる創世記。そして今精霊界の主が人形を作っている。
多くの小精霊が見守る中で光り輝く体が宙に浮き上がった。だがそれは中身のないただの
小柄で短髪。ルキナと同じ白い肌に白い髪がなびいている。朔弥とお揃いの黒いエプロンをつけた光り輝く少年の姿。目を閉じて眠るように宙に立つ少年の両腕、肘から先がない。
「うん、いい感じだ。どうだろう?」
白い手がふわふわと漂い輝く体を見回している。そして両手で器用にハートを作ってみせた。どうやら気に入ってくれたようだ。
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