015:成長熱①




「ほぅほぅほぅ?これがウワサのヒカルか」

「まぁまぁまぁ?随分可愛らしいじゃありませんこと?私もこんな子が欲しいですわ」

「あたしはいらねぇな。黒い手で十分だ」


 二人の大精霊に壁際まで追い詰められガン見されヒカルは涙目でガクブルに震えている。


「お前らいい加減にしろよ。ヒカル虐めたら出禁だぞ」

「虐めてねぇよ。観察だ」

「ヒカルのウワサで小精霊は大騒ぎですわ」



 軽い思いつきでやってみたら出来ちゃった!てへぺろ!で済まないくらい精霊界は大騒ぎになってしまった。ファウナも言っていたが、どうやら自分はあり得ないことをやってしまったらしい。


 朔弥が頭をかきながら嘆息する。


「そんなにいかんかったかなぁ?ヒカルに旨いメシを食わせてやろうと思っただけなんだが」

「別にいんじゃね?王サマがすることだし?すげぇ、というか?よくそんなこと思いつくな、というか?アホなんじゃね、というか?そばで見てて飽きないな。次何かする時は絶対呼んでくれ!」

「ホント、今回の王サマは面白いってみんなでワクワクしてますわ。次は何をしでかすだろうって。皆で楽しみ‥ゲフンゲフン、期待しておりましてよ?」

「あはは!ちげぇねぇ!」

「飽きないって‥しでかすって‥」


 もうね、これでも一応王サマなのに評価酷くね?


「しっかしホント面白いなこれ」

「分類はどこになるのかしら?随分強いですわね」

「強い?ヒカルは強いのか?元は手だぞ?」


 見た目こんなに愛らしく非力に見える。


 いやいや?強さなど求めていないし?


「小精霊というには強すぎる。大精霊というには弱すぎる」

「ものすごいたくさんの小精霊が見えますわ。これだけ集まれば強くもなりますわね。強いて言うなら中精霊かしら?」

「お!中精霊!上手いこというな!」

「光の中精霊ヒカル。くどいですわね」


 ニクスがゲラゲラ笑っている。粗忽ソコツヤンキーと毒舌淑女の遠慮なしの会話に少し離れて控えていたファウナが目元を覆っていた。




 朔弥と一緒に長椅子に腰掛けていたルキナがこてんと朔弥に寄りかかってきた。


「ん?どうした?ルキ‥ナ?ん?」


 様子がおかしい。呼吸も浅い。額に手を当てれば熱かった。


「熱?なんで?!ルキナ熱があるぞ?!」


 朝食はいつものように元気に食べていた。むしろ普段より多い。フレンチトーストをおかわりしていた。特に症状も先程までなかったのに。


「失礼いたします」


 ススと歩み寄ってきたファウナがルキナのあちこちを見て触れて回っている。その頃にはルキナはぐったりしていた。


「これは‥成長熱?」

「え?マジ?すげぇ」

「随分早いですわね」


 大精霊二人がよってたかってルキナをツンツンしている。病人にする扱いではない。むずむず動くルキナを庇って朔弥が抱き上げて囲い込んだ。


「やめろって!嫌がってんだろ?!お前らルキナに触んな!!」

「嫌がってるというかくすぐったいんじゃありませんの?」

「同じことだろうが!もうルキナを見んな!触んな!あっちいけ!」

「かーほーごー。アホらし。ただの成長熱じゃねぇか」


 ただの成長熱?説明を求めて朔弥はファウナに懐疑の視線を送る。焦っているから目つきが鋭くなったのは仕方がない。


「大精霊が成長する際に発する熱でございます。大事ございません」

「大事ない?大したことないのか?」

「どうぞご安心を。時間が経てば落ち着くものです」

「大精霊は熱出して強くなんだよ。人族だっておんなじだろ?」


 子供は病気して強くなるとはいうが?あれは免疫獲得だろ?精霊ではそういうもん?


 黒紫の二人はあてにならない。朔弥は真面目ファウナに問いかける。


「休ませておけばいいんだな?この熱はどのくらい続くんだ?」

「個人差がございますが一般的には十日か二週間くらいでしょうか?」

「げ?!そんなに?!ルキナ死んじゃうぞ?!」

「大精霊は死にませんわ。延々と苦しむだけですのよ」


 ルキナは朔弥の腕の中で荒い息を吐いている。朔弥の触れている腕が熱い。相当な高熱になっているようだ。


「延々と苦しむ?!うわぁひでぇ!薬は?解熱剤とかないのか?」

「あるわきゃねぇだろ。精神体なのに。あたしらに人族の薬なんぞ効かないからな?大精霊は子供ん頃にみんななるんだよ。あたしもなったな、一ヶ月くらい」

「私はどうだったかしら。三週間くらいだったと思いますわ」

「げげ?!」


 一ヶ月?三週間?この高熱が?嘘だろ?ないない。さすがにそれはない。冗談か?笑えないぞ!

 真偽を問うてファウナを見るも冗談を一切言わない大精霊が頷いてみせた。


「上位の大精霊ほどに高熱かつ時間が長くなる傾向があります」

「マジか?!ルキナは光の大精霊だろ?!最上級じゃねぇか?!なんとかならないのか?!」

「メシ食わして寝かしときゃそのうち治るって。死にゃあしねぇよ」

「冷やすんでしたら水ぶっかけましてよ?」

「あ、それ効くんだよな」

「フザけんな!だから!お前ら手を出すな!俺が面倒を見る!」


 ルキナを抱えあげルキナの寝室まで駆け込んだ。先日作ったばかりのルキナの部屋だ。天蓋付きのベッドにルキナをそっと寝かせた。

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