010: だいせいれいがあらわれた!(たたかう/▶︎えづけ/にげる)④




「うわぁ、なんか旨そうな匂いがする!」

「これはなんですの?」

「酔い覚ましの茶漬け。空っ腹なら何か食ったほうが辛くない」


 どんぶりに移し荒くほぐした焼き鮭を散らした。脂ののった時知らずのあごだし雑炊茶漬け風である。あご出しはインスタントだがこれだけで旨そうだ。

 どんぶりを持ってリビングに行けば潰れたはずの大精霊が目を覚ましていた。朔弥を見て相当に動揺している。


「あああの、この度は大変失礼を」

「あ、いいから。これ食って酔いを覚ましとけ」

「おお?なんだか美味しそう?」

「ヴァルキリーッあたしにも一口食わせろッ」

「私も食べたいですわ!」

「意地汚い!病人飯を奪うな!お前らは後で何か作ってやる!」


 どんだけ食い意地が張っているんだ?


 レンジで蒸したとうもろこしを出せば黒紫の二人はリスのようにせっせと齧っている。やっと静かになった。朔弥はテーブルで行儀よく待っていた少女の頭を撫でる。


「お待たせ。ルキナのおやつはふわふわパンケーキにしような?」


 ルキナの大好物だ。大精霊が二人現れたせいか小精霊がキッチンに入り込んで朔弥の手伝いをしたがった。食器洗いをさせてみれば小精霊が集まって器用に鍋を洗っている。体は小さいが数の連携プレーで勝利だ。


 小人?そういやなんかこういう絵本があったな?


 小人と思ったが小精霊をよく見れば形も色々だ。光は小人に蝶の羽を生やしているが、火の小精霊はトカゲやケモノの形をしている。水や風は人形ヒトガタではあったが見た目も違う。


 汚れたテーブルを水の小精霊が洗い流す。風の小精霊がゴミを集めてゴミ箱に捨てる。火の小精霊がとうもろこしに醤油をつけてこんがり炙っている。小精霊は働き者だ。


 すげぇ、小人のお手伝い?物凄く助かる!

 バイトで雇いたいところだ!


 そこへ朔弥の肩をとんとんと白い手が叩いた。自分も手伝うと言っているようだ。朔弥が苦笑する。


「じゃあメレンゲ作ってもらおうかな」


 小精霊と違い白い手ならハンドミキサーも握れる。出来上がった硬めのメレンゲに黄身と粉を混ぜて作った生地を合わせてパンケーキ生地を作る。それをフライパンで蒸し焼きだ。白い手は続けてハンドミキサーで生クリームのホイップを作っている。白い手のホイップは二回目だがちゃんと氷水を使って冷やしている。学習しているようだ。


 アイランドキッチンは人数が入れば手狭になるが、小精霊や白い手では狭さを感じない。使った先から鍋や食器が勝手に洗われ乾燥される。道具だけが宙に浮いて動いているようだ。まるでポルターガイスト状態。朔弥一人で作業しているようにやり易かった。


 白いプレートに小さめのスフレケーキを二つのせてホイップクリームを添える。いちごソースと粉砂糖でデコれば映える肉厚ふわふわパンケーキの出来上がりだ。


「ほらできた」


 このパンケーキはルキナのお気に入りだ。大好評でモリモリと食べてくれる一品。表情はないがぴょんぴょん跳ねて喜んでくれる。

 口をクリームまみれにして食べているルキナの様子にのんべぇ二人がこれはなんだ?とじぃとこちらを見てきた。特にスイーツ大好き紫銀ヴァルナの目が据わっている。マジで怖い。こっちも怨霊系のホラーだ。


「わーった!わかった!多めに焼いたからお前らも食えよ」

 

 店を出せると寮で評判だったパンケーキ。

 酒呑みに食わせるパンケーキではないが?

 まあよかろう。これ食って何処かへ逝ってしまえ!


 パンケーキを口に含んだ黒銀が目を瞠る。紫銀が声を詰まらせた。


「なんだこれッ口の中でしゅわぁって‥」

「ふわふわぁ‥こんな食べ物があるんですの‥」

「フハハハハッ そうだろう?そうだろう?違いがわかる奴は嫌いじゃないぞ?」

「この白いのも旨い!初めて甘いものが旨いと思った‥」

「え?生クリームで?お前どんだ」

「もう今までのスイーツに戻れませんわ!これは?!どこで手に入るんですの?!」

「いやだから?今俺がここで作ってただ」

「作れんのかコレ?どうやったんだ?!」

「いやだから!見てなかったのか?目の前で作っ」

「ぐぅぅッ 無理だ!あたしには無理だ!鍋で焼くなんて炭にする自信がある!」

「私も無理ですわ。機械は困ります‥」

「機械?どれが?ってオイ!人の話を聞けよ!」

「「おかわりください」」


 意訳すると?また俺が作れってか?


 酒を飲みにきたはずの二人は結局このパンケーキで朔弥に陥落した。

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