第23話 陰陽師は不動金縛りを会得する

 昼休み、きのう手に入れた『これで君も陰陽師』という本を読む。

 読んだ後にカタログスペック100%しておく。


 本に書いてあることを実践しようとしてたところ、今度は武川たけかわさんがやって来た。

 武川たけかわさんはスポーツギャル。

 ソフトボール部のキャプテンだ。

 小麦色に焼けた肌が黒ギャルを思わせるが、ちょっと獰猛な雰囲気がある。

 キャピキャピした雰囲気とは無縁だ。


「ちょっと付き合え」


 顎をしゃくられた。


「ちょっと、波久礼はぐれ君に何するつもり」


 一緒に飯を食っていた御花畑おはなばたけが気色ばむ。


「ちょうど良い。お前らも来いよ」


 俺と御花畑おはなばたけ小前田おまえだは、武川たけかわさんのあとをついていった。

 着いたのは畳のある武道場。


「ここで俺は何をしたら良いんだ」

「立ち会ってもらいたい」

「へぇ何で?」


「真中ふびと知っているか。動画を見たが、あれは達人だ。波久礼はぐれ君、いやふびと様に一手ご教授願いたい」


 くそう、クラス女子にばれる率が高すぎる。


「何で分かった?」

「足運びでだ。それと体つき」


「分かった、やろう」


 武川たけかわさんが空手着に着替えてきた。

 異世界では武川たけかわさんは拳法家だったけど、家で何かやっているのかな。

 構えも堂に入っている


「じゃあ始め」


 御花畑おはなばたけが審判だ。


「きぇーい」


 武川たけかわさんが正拳突きをやってきた。

 腕をつかみ少し引く。

 バランスが崩れたところを投げる。


「どう?」

「参りました」


「見たところ空手家だと思うけど、俺のはどっちかというと鎧組討術」

「関係ない。弟子にしてくれ」

「何か事情があるのかな?」


「お祖父さんがやっている家の道場を継ぎたいんだ。今時道場破りは来ないけど、もしもの時がある。他流の技も身につけたい」

「分かったよ。正体を秘密にしてくれれば、組手ぐらいは付き合う。型も教えられると思う」


「もう、この女たらしさん」


 小前田おまえだが俺を指で突いた。


「私、いい考えが」


 御花畑おはなばたけがそう言って何やら提案があるよう。


「言ってみろ」

武川たけかわさんをメイクしてみたらどう。美し過ぎる道場主、きっと評判になるわ。きっと生徒が押し掛けるわよ」

「却下だ。良くない輩が寄って来るに決まっている」


「ふーん、彼氏気取り」

小前田おまえだ、そんなんじゃない」


「私も、美貌で生徒を募るのはちょっと」

「ほら、武川たけかわさんもそう言っている」

「でも、ふびと様が師範代になってくれたら♡」


「ここにもふびとのファンが」

「油断も隙もないわね」


 武道場に荒木あらきが入ってきた。


「誰が死合っていると思えば、乳繰り合っていただけか」

「よせ」


 俺は武川たけかわさんを止めた。

 そう言えばこついは異世界で前衛職だったな。

 何かやっているのだろうな。


「お前が代わりにやるか。よう、波久礼はぐれ


 異世界ではこいつもぶっ殺したな。

 俺の中ではそれでチャラになっている。

 だが、よく考えたら、恨みはあるな。

 この世界の俺が虐められた。


「御託は良い掛かってこい」


 俺は指を上に向けてくいくいっと動かした。


「いじめられっ子の癖して」


 だが、他の仲間がやられたことを聞いていたのだろう。

 慎重に間合いを計っている。


「いいから掛かってこい」


 シュッシュツと呼気を吐いて、荒木あらきはジャブを繰り出した。

 ボクシングの系統か。

 そう思ってパンチを手で捌いたら、ローキックが飛んできた。

 俺はローキックを華麗にかわした。

 どうやらキックボクサーのようだ。


「お前、名前は何だっけ?」

「馬鹿にしているのか。荒木あらきだよ」


「カタログスペック100%。荒木あらきばく


 陰陽師の物語の一節を握って、スキルを掛けた。

 それには名を聞いて動きを縛った話が載っている。

 一度やってみたかったのだ。


「何で動けない。こん畜生」


 俺は荒木あらきを投げて畳に叩きつけた。

 体が動かないので、受け身が取れないから、そうとう痛いだろう。

 念のため、5センチぐらいの小瓶に入れてあるネクターポーションを掛けた。


「凄い。不動金縛りって奴」


 感心した様子の武川たけかわさん。


「まあね。似たようなものだよ」

「それも教えてくれる?」


「ちょっと待って」


 不動金縛りで検索を掛ける。

 ああ、手印と呪文でできるか。

 カタログスペック100%で武川たけかわさんを修験者だと認めさせればできるかもな。

 滝行や荒行をすれば良いだけだし。


「そのうち教えてやるよ」

「期待している♡。手取り足取りね♡」

「ねぇ、私にも教えて♡。秘密の手ほどき♡」

「私も♡。付きっきりでね♡」


「全員一緒だ」


 はたから聞いていると、4Pプレイ宣言みたいだな。

 いや護身術の教授だって。

 信じてくれ。

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