第17話 勇者は両親を説得する

「あの、父さんと母さんに話があるんだ」


 夕飯が終わって、一家団欒の場所で、俺は切り出した。


「改まってなんだ?」

「悪い報せなら、聞きたくないわ」


「悪くはないかな。良くもないけど」

「早く言え、焦らすな」


「ちょっと待って」


 俺は自室から小ぶりのアタッシュケースを持ってきて、それをリビングのテーブル上に置いた。


「開けるぞ」


 父さんがアタッシュケースを開けてすぐに閉じた。


「もうお父さん見えなかったわ」

「これ、どうしたんだ?」


「富士山の天然水に術を掛けて売った」


 母さんが、アタッシュケースを開けて息を飲む。


「それとこれも」


 スクラッチくじの1等を出した。


「まさか、当たっているのか」

「うん、1等100万円がね」


「信じられん」

「母さんも」


「術の力は強大なんだ。世界征服もできてしまうぐらいに。こんなのはあくび混じりでもできてしまう」

「その術の力というのは何だ?」


「カタログスペック100%って言って、嘘からでた真みたいな力なんだ」

「良く分らないな」

「例えばだよ幸運になるという石が、その説明書きと一緒に、あるとするよね。カタログスペック100%を使うと、本当に幸運になるんだ」

「なるほど。それだと身を守れないな」

「そんなこともないよ。幸運があれば、ピストルの弾も当たらない」

「その能力は他の人にも及ぶのか?」

「もちろん」


「状況は把握した」

「母さんも分かったわ」


「どうするべきだと思う? 能力をなるべく使わないという方針は取れないんだ。たぶん厄災が襲って来る。その日に備えないといけない」

「史郎のことだから確信してるんだな」

「100%そうなると思う」


「偉いわ。史郎ちゃんは、人助けをするのよね」

「そうなると思う」


「どんどんやりなさい。母さん応援するわ」

「父さんもだ。一つ気になったのは900万円の水は誰に売った」

「ヤクザ」

「なにー!」


「父さん落ち着いて、水の効力に悪人を善人にする力があるんだ。今頃みんな堅気になっている」

「父さんはそういう行いを許せない」

「でもせっかく伝手ができたのに」


「とにかく反社会的勢力との付き合いは断固反対だ」

「母さんも反対よ。モデル業にも差し支えるわ。芸能人はそういうの厳しいでしょう」


 うーん、何か手はないかな。

 そうだ。


「水をネットオークションに出したら駄目かな。それを誰が買おうが関係ないでょう」

「グレーだな。だが、許容範囲だ。オークションで落札するのは自由だからな」

「そうね。それなら闇取引というわけでもないし」


 ふぅ、何とかなったぞ。


「ネットオークションと税金関係は父さんに頼みたい」

「それぐらいは問題ない。税理士さんもお任せコースだと金はとられるが、ほとんど何もしなくて良い」


 ネットオークションのアカウントは父さんに作ってもらおう。


「余裕ができたら、寄付もするつもりなんだ」

「まあ、大人になっちゃって」

「父さんも鼻が高い」


「1千万円の水飲んでみる?」

「そうだな、知っておきたい」

「術が掛かっているのよね。どうなるのかしら」


 俺はペットボトルからコップに水を注いだ。

 父さんは一気飲みした。


「くぅぅぅ、生き返る。凄いぞ凄い。体が軽くて何でもできそうだ。これの成分は何だ?」

「水と術だよ」


「麻薬では無いんだな。もちろんお前を信用しているし、罪が洗い流された気分だ。なんと言おうか、神に祝福された感じかな。母さんも飲むと良い」

「では、くぅぅぅ、ああん。これ凄い。お肌がすべすべ」

「健康に良いんだ。水に薬師如来の力が宿っている」


「そうか。薬師如来の力か。これをオークションに出すのだな」

「うん、最低落札価格1千万で」

「どのくらい作れるものなんだ」

「そうだね。1日1万本は軽いかな」

「1億、10億、100億、1千億ぅ」


 父さんが絶句した。


「母さん立派な息子を持って幸せだわ」


「災難除けの石があるんだ。必ず身につけといて。それと術を見せるよ」

「父さんも興味がある」


 パワーストーンの説明書きで、もう既に術を掛けてある天眼石に、毘盧遮那仏の祈りを込める。


「カタログスペック100%。ノウマク・サマンダ・ボダナン・バン」


 天眼石が光に包まれた。

 信仰宗教のお題目は助かる。

 毘盧遮那仏の祈りを込めれば、災いが遠ざかると書いてあるんだからな。


「光が見えた」

「私も」


 二人は術の力をどうやって授かったか聞いてこない。

 自殺未遂との関連を疑っているのだろうな。

 当たらずとも遠からずだけど。


 気を使っているのだと思う。

 息子がおかしくなっているぐらいは考えているに違いない。


 話半分ぐらいしか信じてないと思う。

 父さんがこそっとペットボトルを回収してたのを俺は知っている。

 たぶん分析するんだろうな。


 ネットオークションのアカウントはすぐに作られた。

 水をオークションに出して、稲荷山商事に電話して、出品とアカウント名を教えた。

 10本ほど出したが、そんなにお金を持っているだろうか。

 まあいいや。


 落札されなくても構わない。

 駄目だったら別の物を探すまでだ。


 とりあえずの資金はあるので、めぼしいパワーストーンを100万円ほど買っておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る