第16話 企業舎弟は反逆する

Side:藤沢ふじさわ武蔵むさし

 わしは藤沢ふじさわ武蔵むさし

 言うなれば、チンピラ以上、ヤクザ未満。

 組から盃を貰ってないので、半分堅気とも言える。


 今日は簡単な仕事だ。

 裏ビデオの撮影。

 相手役の女は馬鹿な女子高生の御花畑おはなばたけという名前のスケ。

 女優にしてやると言ったらほいほいと契約書に判を押した。


 ビデオのタイトルは、『極道とギャル。女子高生やられちゃいました』。

 わしらはフロント企業なので、堅気を装っている。

 墨なんか入れちゃいない。

 撮影のために入れ墨のボディペイントをする。


 入れ墨と違って痛くないので、弟分もボディペイントを見せ合ってははしゃいでた。

 女が到着。

 話が違うと揉め始めた。

 こんなのは簡単だ。

 バックの名前さえ出せば、大抵は一発で黙る。


 そしたら化け物がやってきた。

 何だよあれは。

 陰陽師を名乗ってはいるが、鬼のまちがいじゃねぇのか。


 やつは帰る時に傷が治る不思議な水を置いてった。

 今回の埋め合わせのためにもこいつを上手く使わないといけない。


「兄貴、その水、俺に使わせては貰えませんか?」

「どう使う」

「アル中とか、ヤク中を治療してやって治療費を分捕ります」


 まあ、それも良いか。


「やってみろ」


 そして、昼食の時。


「うはぁ、天国が見える」


 昼飯を食っていた奴の一人がそんなことを言い始めた。

 こいつ、薬をキメてやがるな。


「はぁぁぁぁぁ、爽快」


 別の奴が叫んだ。

 もしかして、飯に薬を入れられたか。

 誰の仕業だ。


「飯に薬が入っているぞ」

「もうばれちゃいましたか」


 そいつはあの薬を預けた奴だった。

 手には水鉄砲を持っている。


 そしてそいつはそれを乱射し始めた。

 突然のことに顔に水を食らってしまった。


「くああ、気持ち良過ぎる」


 垂れてきた水の一部が口に入ったのだろう。

 物凄い爽快感が押し寄せてきた。

 そして、今まで犯してきた罪を告白しなければという思いに駆られた。


 そいつは自分の口の中に水鉄砲を発射して、恍惚としていた。


 あの爽快感をまた味わいたい。


「くれ」


 わしは口を開けた。

 水が口に入って来る。

 悟った。

 罪を償わないと。


 改心してない仲間を羽交い絞めして、水を口の中に入れる。

 全員が改心した。


 わしらは、警察に自首したところ、大した罪ではないので、調書をとられ帰された。

 それから、わしらはあの薬をまた使いたいと分析を始めたが、驚いたことに成分は水だ。

 あらゆる病気とけがが治るらしい。


 一滴コップに垂らせば、十分な爽快感が得られると、分かったが、もう水の残りが少ない。

 わしは、あの女、御花畑おはなばたけと連絡を取った。


 ふびとという化け物から、あの水を買うことができた。

 もうこの水、ネクターポーションは手放せない。

 そしてこのネクターポーションの素晴らしさを世界中に伝えるのだ。


「おい、手筈はできたか」

「ばっちりですよ」


 今日はバックについている正丸吾野しょうまるあがの組の宴会。

 酒にネクターポーションを混入した。

 わしらは水鉄砲を持って別室に待機した。


「くおお」

「かはぁ」


 始まった。

 わしらは覚悟を決めて隣室になだれ込んで、水鉄砲を乱射する。


藤沢ふじさわ、何のつもりだ」


 組長が尋ねる。


「いえね。改心して貰おうと思いまして。では」


 容赦なく顔面にネクターポーションをぶっかけた。


「くあああ、負けんぞ」


 組長の口の中に僅かに入ったようだ。

 組長は爽快感と戦っている。

 開いた口の中に追加で水を入れる。


「ふははは、こうしゃいられん自首しなければ」


 組長が落ちた。


「おんどれ親父に何をした!」


 チャカを至近距離からぶっばなされた。

 わしは慌てずに水鉄砲からネクターポーションを飲む。

 肉体から排出される弾丸。


 痛みさえも、快楽で塗りつぶされる。


「くぅぅぅ、お前も改心しろ」


 信じられないと、目を剥く組員の顔に、ネクターポーションを掛けてやった。

 あんぐりと口を開いていたので改心したようだ。


 けが人なく、わしらの戦いは終わった。

 組長が自首して引退。

 組はほとんど解散状態になった。

 あとを継いだのは昔ながらの極道精神を継ぐ男。


 この日からわしらの武器は水鉄砲になった。

 聞いた話では組の抗争では負けなしらしい。


 頭や心臓に弾丸を食らわないかぎり無敵だから、納得いく話だ。

 敵対してた組ももれなく改心した。


 わしらは今日もネクターポーションを売っている。

 ネクターポーションには甘露という俗名がついた。

 500ミリペットボトルに、原液を1滴入れた物が数万円で取引されている。


 警察に捕まる奴も出たが、水を売っているのだから取り締まれない。

 病気が治るとかいうと薬事法で取り締まられるから、甘露ありますよとだけ看板を出した。

 脱法ドラッグを売る店にも卸した。

 しかし、あのネクターポーションは何でできているんだろうな。

 大学の研究室もお手上げだったんだぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る