第15話 陰陽師は怪しい取り引きをする

「1千万円出します。どうか売ってやって下さい」


「売りなさいよ。だって1千万円でしょう」

未依子みいこちゃん、怪しい薬を売りだしたらお終いよ」


「いっちゃあなんですが、成分分析では水でしたよ」


 確かにスキルは掛かってはいるが水だ。


「病気が治るという話だったが、そっちはどうだ」

「ええ、けがも病気もばっちりで。アル中もヤク中もみんなまともになっとります」


 何となく釈然としない。

 良いことをしているんだけど、良いことをしている感がない。

 取引相手がヤクザだからだろうか。


 俺が売るのをやめると、アル中とヤク中が元に戻るのか。

 仕方ない売るか。

 余裕ができたら儲けは寄付しよう。

 どうやって寄付するかが、頭が痛い。


 宝くじなら、それを父さんに渡して、寄付してよと言えば良い。

 1千万円はまずいな。

 どうせ現金だろう。


 今もヤクザの傍らにはジュラルミンのアタッシュケースがある。

 金の処分は後で考えよう。


「分かった」


 俺はペットボトルをナップザックから取り出して、渡した。

 ヤクザは、御冷に数滴垂らすと、それを飲んだ。


「くううう、生き返るぜ。今回の品質もばっちりで。では」


 アタッシュケースがテーブルの上に置かれた。

 中を確認などしない。


 ヤクザが名刺を出してきた。

 株式会社、稲荷山商事とある。

 名前は藤沢ふじさわ武蔵むさし

 普通の名前だな。


「フロント企業という奴ね」

「わしも、組の盃は貰っとりません。企業舎弟という奴で」

「ネクターポーションの利益が組に流れるのは面白くないな」


「ではどうなさるおつもりで」

「ネクターポーションを組員全員に飲ませろ」


 そう言って俺は追加でペットボトルを出した。


「わしも腹を括りました。組を真っ当にしてみますぜ」

波久礼はぐれ君、なんでこの人を信じるの」


小前田おまえだ、俺の名前をポロポロと出すんじゃない。この人がネクターポーションを飲んだからだよ。俺は術の力を信じる」

「わしは正直、このネクターポーションを広めるためなら、死んでも構わないと思っとります」

「よし、後でお守りを送る」

「ありがたい。先生の術があれば100人力ですぜ」


 取引が終わったので、アタッシュケースを持って喫茶店から外に出る。

 少し散財するか。


 百貨店に入る。

 ポップとポスターを見る。

 うっとり超素肌美人。

 ぷるるるん、吸いつきたくなる魅惑のフルーティ唇。

 など色々とある。


 カタログスペック100%できそうな化粧品を買いまくる。


「めんどくさいな。端から端まで全部だ。サービスにポップとポスターチラシも付けろ」

「ありがとうございます」


 品物を送らせたいが、住所がな。

 ウイークリーマンションが契約できればいいが、ネットで調べたら未成年は借りられない。

 ホテルもまともな所はだめか。


「二人とも、化粧品を送らせる。スポンサーからだと言っておいてくれ」

「べつに良いけど」

「芸能人になったみたい」


 お前はまだ仕事はしてないが芸能人だろう。


「カタログスペック100%。二人にメイクしてやってくれ」

「かしこまりました」


 カタログスペック100%された化粧品の効果は凄まじい。

 『大変身! 誰でも美人になれるメーキャップ』の時より数倍も違う。

 多数の化粧品を使うことで、単一のスキルより効果があるのだと思う。


「うわっ、美人。芸能人かしら。男の人もイケメンね」

「ほんと、羨ましい」

「写真撮っちゃおう」

「あれは、ふびと様」


 他の買い物客が、立ち止まって噂する。


「凄い。前の時も美人だったけどさらに凄くなった」

「この化粧品は手放せないね」


 二人が鏡を見て感想を述べる。


「他の人にあげたりするなよ」

「分かってるって」

「値段みたら、気軽に譲れないよ」


 百万近く使ったな。

 こんなに1日で使ったのは初めてだ。


 宝くじ動画が既にサイトにアップされている。


 金持ちはいいなとのコメントが。

 いくら使ったら1等が出るんだろうとのコメントもある。


 顔が良い奴は運もいいんだよとのコメントには、そんなことないだろうとの突っ込みを入れたかった。

 こういうのは派手に玉砕するから面白いんだよ、当たってどうするんだよとのコメント。

再生回数は 少ない

 不味ったか。


 問題はチャンネル登録者数があまり増えていない。

 現在278人だ。

 徐々に増えては来ているが1000は夢のまた夢だ。

 1000を超えないと収益化は出来ない。


 宝くじ動画も千ぐらいしか再生されていない。


 何をやったら陰陽師だと認めてもらって、バズるのかな。

 何か起こらないと駄目なのかも知れない。


 しかし、百万円は派手に使ったな。

 あまり派手にやると税務署が動くと思う。


 やはり大人の味方が必要だ。

 両親を巻き込こもう。

 それしかない。


 さて、これから両親の説得だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る