第6話 ヤクザと戦うイケメン

 モデルの撮影がないので、今日から御花畑の後を放課後つける。

 もちろん真中ふびとの変装をしてだ。


 辿り着いたのはスタジオ。

 施錠などされていないので簡単に中に入れた。

 ベッドと大人のおもちゃが用意してあるのが見えた。

 一目で状況を察した。

 こりゃ、アダルトビデオ撮影だな。


「話が違う。モデルの撮影だって聞いたから来たのよ」

「残念だな。契約書に判を押したから後戻りはできないんだ」


 御花畑おはなばたけは騙されたらしい。

 撮影スタッフは大半が入れ墨をしていて、とても堅気とは思えない。


「ちょっと良いかな」

「てめえは誰だ?」


 入れ墨をした中の一人が俺を誰何した。

 こいつがここで一番偉いやつか。

 それとも門番役かな。

 まあどっちでもいい。


「真中ふびとと言う者だ」

「名前と面は覚えた。さてどういうことかな」

「その女を返してほしい」


「できないな。もっとも違約金を今すぐ払うっていうのなら、勘弁してやる。それとも兄さんが臓器でも売るかい?」

「それもごめんだな」

「よく見れば良いつらしてるな。AV男優でもいけるな。いやゲイビデオでもいけそうだ。ここに踏み込んだからにはただじゃ返せない」


「どっちもごめんだ。めんどくさい。掛かって来い」


 俺は人差し指を上に向けてくいくいっと動かした。


「兄貴、こいつ舐めてますぜ」

「分かっている。極道の恐ろしさを心に刻んでやれ」


 おー、最初から刃物とか警棒とか出してくるのな。

 関係ないけど。

 打ち込まれる武器をひらりひらりとかわし。

 隙を見つけては投げる。


 スタジオの床はコンクリートだ。

 さぞかし痛いだろう。

 関節技も加えることにした。

 脱臼や骨折が増えたが知ったこっちゃない。


「こんなことをしてただじゃ済まないぜ。俺達のバックには正丸吾野しょうまるあがの組がついているんだ」

「組員が素人にやられたって、吹聴して回るのか」

「どんなことをしても追い込んでやる。やさと家族さえ突きとめれば、こっちのものだ」

「生きて帰れればな」


 全員を叩きのめした。


「助けてくれたのはありがたいけど、あなた、どういうつもり」


 御花畑おはなばたけは俺を疑っているようだ。


「ふびとだ」

「ふびとね。誰かに頼まれたの?」

小前田おまえだにな」

「そう、良美が。でもこのままでは済まないわ」


「まあ見てろ」


 俺は男達から毛を採取して、名前をカードフォルダーの透明なビニールに書き込み、髪の毛を中に入れた。

 持ち物から名前が分からない奴は特徴を書いた。


 さてと、俺は兄貴と呼ばれていた男を起こした。


「落とし前をつけてもらおうか」

「それはこっちの台詞だ」


「ほうどんな?」

「治療費を請求してやる。その女の違約金もな」

「じゃあ、まずは違約金からだ」


 俺は契約書を破り捨てた。


「くそっ。治療費は払ってもらうし、契約書なんかどうにでもなる。その女のヤサは分かっているんだからな」

「そうかな。強がっていられるのも今のうちだと思うぞ」


 俺はさっき採取した髪の毛を1本ずつ藁人形にいれた。

 藁人形の呪いのやり方と書いた紙をもって。


「カタログスペック100%」


 藁人形は光に包まれた。

 俺は釘を藁人形に打ち込んだ。


「ぐひゃあ」

「がぁ」

「ぐはっ」

「がはぁ」

「いだだ」


 全員がのたうち回る。


「げほっげほっ、何をしやがった」

「俺って陰陽師なんだよね。ちなみに本物に近い偽物。ほぼ本物と言ってもいい」

「陰陽師?」

「霊能力者だと思ってくれたら良い。ほぼ本物のね」

「そんな馬鹿なことがあるか」


「信じないならいいよ。2、3人を呪い殺してもいいけど」

「くっ、仕方ねぇ。払う物、払って貰えれば手打ちにしても良い」

「じゃあ、治療費もちゃらにしようかな」


 ペットボトルに入った富士のネクターポーションを数滴ほど掛けて回る。

 骨折も打撲も脱臼もみんな治った。


「兄貴、こいつ馬鹿ですぜ。俺達を回復しやがった。今度こそ締めてやりやす」

「よせ。あがぁ」

「ぐわっ」

「げふっ」

「あががが」

「ぐわっ」


 俺は再び藁人形に釘を刺し込んだ。


「分かったか。お前らの命を握っているのは、俺。俺なんだよ」

「何だが夢を見ているみたい。陰陽師って実在したのね」


 御花畑おはなばたけが感心したように言った。


「本物に会ったことがないから分からないけどな」

「会ったことがないのに、陰陽師やっているの」

「ノリだよノリ。分かるかな、恰好良いだろ」

「実際はなんなの?」

「秘密だよ」


「はぁはぁ、くそっ。鉄砲玉を送っても無理なんだろうな」


 兄貴分が痛みから復活したらしい。


「やっとわかったか。人外の能力者にあやをつけようってのが間違っているんだよ」

「分かった。手を引く」

「じゃあ。これをあげるよ」


 俺は富士のネクターポーションの残りを放り投げた。

 兄貴分はキャッチして目を剥いた。

 それがどれだけの金になるか計算したんだろうな。

 試してはないが、癌にも効くかもしれない。


 渡したのは理由がある。

 あの宗教団体の水の効能をスマホで確認した時の一文にこう書いてある。

 飲むと清らかな心になって生まれ変わり、現世の罪も洗い流されると。

 こいつらがこれを飲めば善人が量産されるというわけ。


 強制的に飲ませなかったのは、自発的に飲まないと効力がないのかいまいちはっきりしなかったからだ。

 渡せば金づるだと思ったり、色々な思惑が生まれるだろう。

 どう転ぶか分からないが、これが最善のような気がした。


 俺と御花畑おはなばたけは無事スタジオを出られて、ほっと一息。

 異世界の魔王に比べれば、ヤクザなんか怖くない。

 怖かったのは御花畑おはなばたけが死ぬことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る