第5話 怪しいポーションを作る勇者
朝早くからインターホンが鳴った。
母さんは二言三言、話すと招き入れることにしたようだ。
入って来たのは、芦ヶ久保さんだった。
今日もばっちり決まってキャリアウーマンに見える。
「おはようございます。グリフォン・プロダクションの芦ヶ久保と申します。契約書をお持ちしました」
「史郎、何の契約書だ?」
父さんが俺を問い詰める。
「俺、タスチューバ―やりたいんだ」
「モデルもです。譲れません」
「まあ、モデルだって。テレビ局が来たらどうしましょ」
「信念をもってやるのなら、好きにしなさい」
「そうね。しっかりした芸能事務所みたいだし」
「父さん、母さん、ありがとう。普段は顔は隠して、モデルをやる時だけ顔を出すことにしたから、迷惑は掛けないと思う」
契約書に判を押した。
「ご契約ありがとうございます。私がマネージャーを担当しますので、よろしくお願いします」
「史郎をよろしくお願いします」
「ほら史郎ちゃんも」
「お願いします」
親子3人で頭を下げた。
「責任をもってお預かりします」
それにしても行動が早いな。
学校に登校するとクラスメイトが雑談している。
「ふびと様ってどこに住んでいるの」
「近くに違いないよ。ハンバーガーショップに立ち寄ったのよね」
「仕事のついでに立ち寄っただけかも知れないし、分かんないでしょ」
「ホームページには都内在住って書いてあるけど」
「何かヒントがないかな」
「出待ちして、追っかければ」
「あんたそれ、ストーカーよ」
彼女達がふびとに注目するのも一瞬だろう。
一ヶ月もたてば奇麗さっぱり忘れるさ。
タスチューバ―の方は忘れて欲しくないけど。
あれしきのことで、だらしない奴だ。
奸計専門の
俺が睨み返すと、視線を外した。
あとでこいつらを一掃しないと。
異世界ならぶっ殺せば終わりだけど、日本じゃそうはいかない。
何か手を考えよう。
「あの」
「なんだい?」
できる限りやさしい声で話し掛け、撮影ポーズをとった。
「はひっ♡」
おっと恰好良いポーズが出てしまったようだ。
気をつけないと。
「今、一瞬魅力的に。その魅力で
「心外だな。
「様子がおかしいのよ。なにかあったらしいんだけど、秘密にして教えてくれないの」
「きっと便秘でも治ったんだろ」
「最低。あなたなんかに、話すんじゃなかった」
何となく嫌な予感がする。
陰陽師の本に、占いは陰陽師の基本的な仕事だとあった。
俺も本に従ってやってみる。
本をと硬貨を持ってカタログスペック100%。
硬貨は光に包まれた。
10円玉5枚に100円玉1枚を混ぜてシャッフル、縦に6枚並べる。
表裏で吉凶を占う。
裏が多い。
それも今日の放課後が危ない。
俺が見ていると、何よと凄んでくる。
「別に何でもない」
「昨日のはただの気まぐれだから、いい気にならないで」
「分かっているって」
お前が良い奴だってことは異世界の魔王討伐で知っている。
お前は俺が嫌いかもしれないが、俺は今でも友達だと思っている。
だから、危機には必ず駆け付ける。
安心してくれ。
けがの心配もあるから、治療薬を作っておこうか。
胡散臭い宗教団体のホームページに富士の超開眼霊水なるものがあった。
作り方も書いてある。
富士山の水に薬師如来の祈祷を奉げたとある。
じゃあ俺もやるか。
ホームルームをさぼって屋上で作成作業だ。
富士山の水は自販機でゲットした。
まず、超開眼霊水の効能と作り方の紙と富士山の天然水とで、カタログスペック100%。
天然水が光に包まれる。
手を合わせて薬師如来印を組んで、真言を唱え始めた。
「ノウモ・バギャバテイ・バイセイジャ・クロ・ベイルリヤ・ハラバ・アラジャヤ・タタギャタヤ・アラカテイ・サンミャクサンボダヤ・タニヤタ・オン・バイセイゼイ・バイセイゼイ・バイセイジャサンボリギャテイ・ソワカ」
光のオーラを放つ天然水ができ上がった。
心がこれを神聖な物だと捉えている。
理屈じゃない。
元は自販機の水だけどもな。
水の効能にこう書いてある。
・体に掛けたり飲むと病気やけがが全て癒える。
・飲むと清らかな心になって生まれ変わり、現世の罪も洗い流される。
・飲めば飲むほど徳を積め、天にも昇る心持ちになります。
これ、薬事法違反じゃないか。
効用と作り方は保存しておこう。
消える可能性が大だ。
効能によれば掛けたり飲んだりで、病気けがの全てが治るらしい。
自分で試すのもなんだし、保険だと思っておこう。
超開眼霊水じゃまずいので、名前を付けよう。
ネクターポーションにするか。
うまそうな名前だ。
それと、真言は密教で陰陽師に関係ないという突っ込みはなしだ。
かなり昔はお坊さんとかと陰陽師の境界があいまいだったらしい。
たぶん野良の陰陽師は、色んな経歴の人間がやっていたと思われる。
俺は思いっ切り野良だから、別に良いだろう。
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