第4話 勇者はいじめっ子を懲らしめる

「おはよう!」


 元気に教室に入る。


「今日は逃げ帰らないのかな」

「人が死んでも平気な奴よ。昨日だってわざとさぼったのよ」


 もはや、武術と理想の肉体をもった俺の敵はいない。

 逃げる必要などどこにもない。


 ちなみに前髪だが、切らないでおいた。

 タレントとして活動するので、クラスでは地味を装うことにしたのだ。

 騒がれるのは好みじゃない。


「ねぇねぇ、あの動画みた。強盗退治の」

「みたみた、凄いイケメンで恰好良かった」

「私ファンになっちゃった」


「ファンて、芸能人でもあるまいし」

「ふふん、それがね。グリ・プロのホームページ。みてここ、真中ふびと」

「うぁ、動画の人だ。タレントだったのね」


 クラスの女子が噂している。

 なんだよ、ヒポグリフ・プロダクションだけの所属のつもりだったのに、重複登録しやがって。

 タレント活動は、陰陽師の邪魔になりそうだ。

 だけど今更か。

 ヒポプロの方にも顔写真とプロフィールが出ているだろうから。


 俺も強盗退治の動画をスマホで見てみた。

 動画は1万再生いっているし、隠し撮りは1千いいねがついている。

 この世界の俺があげた動画は最高でも1000再生いってないし、いいねが100以上いったSNSの投稿はない。


 他人が撮ってあげた動画と写真だが、出だしは好調だな。

 でも俺がなりたいのは陰陽師。

 タレントで有名になりたいわけじゃない。


「はーい、着席。ホームルームを始めるぞ」


 先生が声を張り上げた。

 授業は退屈だった。

 勉強なら『必ずマスター』と書かれた参考書シリーズがある。

 これに俺のスキルを使えば学年トップも容易い。


 昼休みだ。

 弁当を速攻で食った。

 ぼっちだが気にしない。

 トイレで食ったり、屋上で食ったりもしない。


「おい、面を貸せ」


 そう言って来たのは親鼻おやはな

 こいつは理事の息子で、柔道部だ。

 俺を虐めてたらしい。

 夢では見たから知っている。


 とりあえずついて行くことにしたところ、体育館裏に着いた。

 ここは完全な死角だ。

 生徒もめったに通らない。

 出てきた不良たちに囲まれた。


「これに名前を書け」


 親鼻おやはなに差し出されたのは借用書。

 俺がこいつらから借金するという書類だ。


寄居よりいあたりの差し金だな」


 寄居よりい野神のがみの軍師役だった奴だ。

 異世界では殺し損ねた。


「つべこべ言わずに書け」

「逆なら幾らでも書いてやる。今度はお前らに慰謝料を払ってもらうか」

「弁護士なんざ怖くないんだよ。俺の親父だって弁護士の伝手くらいある。痣を残さない殴り方も教わったぜ。殴られたくなかったら書くんだな」


「鈍い奴だな掛かって来い」

「やっちまえ。とにかく押さえつけるんだ。傷をつけるなよ」

「はい」


 相手の腕をつかみ引っ張る。

 重心が崩れたところで胃に肘鉄を打ち込んだ。


「げぇえ」


 吐きやがって汚いな。


 次の相手は足を引っ掛けてたたらを踏ませる。

 横に回り、わき腹に正拳レバー打ちをした。

 相手が苦悶の形相を浮かべて崩れ落ちる。


 次の相手はレスリング部か。

 低い体勢でタックルにきた。

 風のようにくるりと躱し、背後について、襟を締める

 すぐに落ちた。


 残るは親鼻おやはなだけだ。


「お前、いつの間に武道を習ったんだ」

「昨日かな」

「ふざけるな。1日で身についてたまるか」


「御託は良い掛かってこい」


 親鼻おやはなは両手を広げ、すり足で用心深く近寄ってくる。

 俺は親鼻おやはなの腕を取り一本背負いを決めた。

 学生レベルじゃ達人の技には敵わない。

 辛うじて受け身はとったようで、大けがはしていないようだ。

 治療の手段も用意しとかないとな。

 俺に使うわけじゃなくて相手用な。


 おっと、生活指導の先生が来た。

 俺は素早く去った。


「強いのね。余計なお節介だったかな」


 教室に戻る途中、廊下ですれ違った御花畑おはなばたけにそう言われた。


「助かったよ」


 俺は足を止めてそう言った。

 御花畑が先生を呼んでくれたようだ。

 後始末をしないで済んで、手間が省けたので、ありがたい。


 学校が終わり、放課後はスタジオで撮影だ。

 この時のために『必読モデルの仕事。誰でもモデルの所作が身につく』という本でスキルを掛けておいた。

 服を着せられポーズをとって写真撮影。

 リテイクも出さずに終了した。


「彼いいね。名前なんて言ったか」

「うちの、真中ふびとですね。今後ともよろしくお願いします」

「次の撮影にも呼ぶから、スケジュール開けといてね」


 芦ヶ久保あしがくぼさんとカメラマンが話しているのが聞こえた。

 くそう、タスチューバ―の衣装はまだか。

 モデルの仕事はもう良いんだよ。

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