第7話 イケメンは呪われた家を撮る

「あのヤクザ達がなんか言ってきたら俺に知らせろ」


 真中ふびとの名前で作ったメールアドレスを御花畑おはなばたけに渡した。


「そうする。よく見たら凄いイケメンね。陰陽師するよりそっちの方が儲かるんじゃない」

「モデルの仕事をしている」

「芸能人だったの。それなのに良美の仕事を請けたのはちょっと不思議ね。良美とはどういう関係?」

「一方的な知り合いだ。あっちは俺のことを知らない」

「変な依頼ね。良美は知らないのに仕事を請けたの。まるで良美の守護霊が頼みに来たと言わんばかりね」

「好きに考えろ」


「私の家の場所も知っているのね。向かっている方向が合っているわ」

「まあな。ちょっと待て、あれが良さそうだ」


 俺は廃屋の写真を撮った。

 辺りは暗く幽霊が出そうだ。

 陰陽師タスチューバ―のお祓い実況にちょうど良い。


 買ってきた本に『呪い100選』という呪いの本がある。

 そこに色々な物を見抜く印が載っている。


「カタログスペック100%」


 両手が光に包まれた。

 さて印を組むぞ。


 狐の手を両方でやる。

 両手の人差し指と小指互いに合わせる。

 指を絡めて最後の印を組む。


 指の窓から覗くと、いるいる。

 幽霊がわんさかいる。


 撮影したいが、勝手に入ると不法侵入になるな。

 俺は電柱の住所と、住宅の外観の写真を、芦ヶ久保さんに送った。


 取材許可を取って貰えるように頼んだ。

 拒否されても構わない。


「何してるの?」

「ここから覗いてみろ」


 御花畑おはなばたけが狐窓から覗く。


「へぇ、陰陽師は伊達じゃないのね。良美がこれを見たら気絶しそう」

「ちょっと手伝ってくれ。動画を撮りたい」

「分かった。動かないで」


 スマホを御花畑おはなばたけが操る。

 俺の指の窓から、霊がたくさん蠢いていているのが、スマホに映った。


「これを除霊する場面を、配信しようと思う」

「いいんじゃない。ホラー分野はある程度人気があるから。それより、あんた波久礼はぐれ君でしょう」

「なんのことかな?」

「惚けるのね。証拠は右手首の傷よ。そんな特徴を持った人は他にいないわ」

「いや、自殺未遂した人は他にいるだろ」

「馬鹿ね。あなた右利きでしょう。右手に刃物を持ったら左手を斬るわよね」


 おおっ、考えなかった。

 左利きの人間だと言おうか。

 でも右手で色々とやっているのを見られている。


「偶然だろ」

「決定的なのは声ね。声は誤魔化せないわ」


 くっ、そんなところを覚えるなよ。


「仕方ない。俺は波久礼はぐれだよ」

「あの前髪の下がこんなだとはね。何で隠しているの?」

「めんどくさいから」

「そう。手首の傷と、死んだ野神のがみ君のことも複雑な事情があるのよね」

「そうだな。ひと言じゃあ説明できない」


「それにしても、陰陽師ねぇ」

「学校で言ったら、承知しないぞ」

「呪いでも掛ける?」

「掛けないさ。自分の欲のために、呪いは掛けないことにしている」

「職業意識って奴ね」

「そんなんじゃないけどな」


「分かった。あなたと私だけの秘密ね。もうここで良い。送ってくれてありがとう。あとでメールする。じゃ」


 帰ったら、『無事着きました♡』というメールが届いた。

 とりあえずクエスト終了かな。


 しかし、傷はともかく、声でばれるか。

 意外な盲点だな。


 10分の筋肉トレーニングをしたあと、今日はボイストレーニングを追加する。


 『失神続出間違いなし。声イケメンになれるボイストレーニング』という本でスキルを掛けた。

 本の通りにトレーニングする。

 自分ではどうなっているか分からない。

 スマホで録音してみると確かに心地いい声になっている。

 普段がこれじゃまずいな。

 何度か試し、いつもの声も取り戻せた。

 切り替えが大変になりそうだ。


 真中ふびとのホームページを覗く。

 プロフィールと動画サイトのアドレスが載っていた。

 クリックするとアップされた動画はない。


 俺は狐窓を通して撮影された動画を事務所に送った。

 編集はほとんど手間が掛からなかったらしい。

 5分にも満たない短い動画だからな。

 30分ほどで動画がアップされた。


 指で組まれた窓から、廃屋と幽霊が映っている。

 幽霊が奇麗に撮れすぎていて、いまいち恐怖感がない。

 怖さを演出するなら、もうちょっとぼやけてたりする方が良い。

 暗闇から急にあらわれるのとかできれば良いのだが。


『うわ、恐っ』

『どうせCGだろ。良くできているのは間違いないけど』

『拡散します』


 いくつかコメントが寄せられて、チャンネル登録者が増えた。

 まだ一桁だけど、まあ最初だし、こんなもんだろ。


 芦ヶ久保あしがくぼさんからメールが来た。

 廃屋の撮影はオッケーらしい。

 10万円で済んだと書いてある。


 10万円は大金だよとちょっと前なら思っただろう。

 今はネクターポーションを売れば100万円ぐらい容易いと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る