第8話 陰陽師は縁切りをする

 朝起きて、チャンネル登録者数と再生回数とコメントをチェックする。

 登録数は32で、再生数は約5千6百だ。


 そう簡単にバズらない。

 何か起きない限り、そうだろうなと思う。

 真中ふびとのホームページの閲覧数も8万5千で5桁止まりだ。


 健闘していると思うが、こんなところだろう。

 まあいいさ。

 バズるのが目的じゃない。


 魔王みたいなのが現れた時に、最悪の未来が来ないように備えることだ。

 周囲から陰陽師だと認められればいい。


「おはよう」

「おはよう」


 教室に入ると俺の挨拶に、御花畑おはなばたけが応えてくれた。


「ふーん、いつの間に仲良しさんになったのかなぁ」


 小前田おまえだがそう聞いてきた。


「昨日ちょっとな。二人で幽霊屋敷を見に行ったんだ」

「そうそう」


「駄目! そういう話題はパス。話しただけで霊が寄って来るような気がするんだもん」

「視てやろうか?」


「怖いからやめて」

「良美は本当に怖がりなのね。ほらあなたの後ろに」

「もう、からかわないで」


 俺はカタログスペック100%をしてから、狐窓を作った。


「あー、憑いているぞ」

波久礼はぐれ君、脅かそうとしたりしても駄目」

「カタログスペック100%。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


 早九字を切った。


「ギャー」

「ちょっと今の叫び声誰よ。誰か脅かしたんでしょう」

「私は聞こえなかったよ」


 俺は聞こえていたが、聞こえないふりをした。

 しばらくして救急車の音がする。

 近所かなと思ったら学校に入ってきた。


「隣のクラスの高麗こまさん倒れたんだって」


 小前田おまえだが青い顔して震えている。


「どうしたんだ」

「あの声、高麗こまさんだった」

「叫び声ね。彼女となんかトラブルがあったか?」


「隣のクラスの秋津あきつ君に告白されたの。噂では高麗こまさんが彼のこと好きだって。もちろん秋津あきつ君には断ったわ。そうしたら、上履きに画びょうが入っていたの」


 あー、何となく図式は見えた。

 で高麗こまさんが小前田おまえだを呪ったと。

 霊能力者もどきはいるんだな。


高麗こまさん貧血だって」


 そう噂話が聞こえてきた。


「助けてあげなさいよ。何なら私が依頼するわ」


 そう御花畑おはなばたけが言った。


「助けるよ。そのつもりだった」


 授業は終り、放課後になった。

 さて、どうするか。

 縁切り刀印護符というのがあるらしい。

 通販サイトに護符の映像が載っていた。

 それを真似して書く。


 効能の説明書きもある。

 それを家でプリントアウトしてカタログスペック100%。


 俺は真中ふびとに変装した。

 御花畑おはなばたけと待ち合わせて小前田おまえだが暮らすマンションに。

 インターホンを鳴らす。


「はーい、どなた」

「真中ふびとです」

「どうぞ入って♡」


 小前田おまえだが中に入れてくれた。


「声どうしちゃったの?」


 御花畑おはなばたけが囁く。


「変えてみた」

「多芸ね」


「二人は仲がいいのね。少し妬ける」

「勘違いしないで欲しい。今回は仕事できた。生霊に悩まされているらしいな」

「それが、分かんないの。大した実害がないから」

「騙されたと思って術を受けてみろ。カタログスペック100%」


 護符が光に包まれる。

 小前田おまえだに刀印を作らせる。

 そして護符をなぞらせた。


「これで終りだ。悪縁は切れた」

「お代は?」

「それなら心配しないで良い。御花畑おはなばたけからの依頼だ」

「悪いわね、波久礼はぐれ君」


 小前田おまえだがさりげなく言った。


「悪くはない。はっ、いつ俺だと気づいた」

「傷と雰囲気で」


 くそう、ばれてしまうものなのかな。

 声をせっかく変えたのに。


「手首の傷を隠した方がいいのかな。でも、できれば、隠したくない。これは名誉の負傷なんだ」

「そうなの」

「私も初めて聞いた。陰陽師の秘術でなんとかならないの」


 俺はネクターポーションを傷口に掛けた。

 傷口からは黒いもやが上がり、ネクターポーションと反応して激しくスパークを散らした。

 おー、そんなことになっているとは。

 ただの傷じゃないとは思っていたが。


「凄いね」

「うんうん」


 驚愕する二人。

 俺自身もびっくりしているところだ。


「分かったか。ただの傷じゃないんだ」

「敵はどんな悪霊? もしかして鬼」

「悪霊はだめだけど鬼なら見てみたいな」


「敵は邪神だ。仕事も終わったし、もう帰るよ」

「今日はありがとう♡」

「わたしからもありがと♡。それにしても良い声」

「声良し、顔良し、神秘性よし、非の打ち所がないと思う」

「格闘技もできるんだから、脱いでも凄そうね」


 話が危ない感じになったので、逃げるように帰った。

 二人が救えたのが嬉しいが、恋人がほしかったわけじゃない。

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