第41話 勇者は励まされる

 やる事がないので、ネットで検索をしたりして時間を潰した。

 御花畑おはなばたけ小前田おまえだが仕事をするらしい。


 御花畑おはなばたけはエキストラデビューをするとSNSに書き込んでいた。

 俺は芦ヶ久保あしがくぼさんと連絡を取って撮影の現場を教えて貰った。


 見物人がドラマの撮影を見守っている。

 お目当ての人気俳優が姿を現すと、見物人がどっと沸いた。


 スタッフが見物人を黙らせ、撮影が始まる。

 俺は遠くから御花畑おはなばたけの出番を待つ。

 いた、彼女だ。

 ただの通行人、それが彼女の役だ。


 彼女の出番はあっという間に終わった。

 芸能界デビューできてよかったな。

 俺は嬉しくなった。


 話をしないで去ろう。

 そう思ったらスタッフが立ち塞がった。


波久礼はぐれさんですよね?」

「そうだけど」

御花畑おはなばたけさんから、手紙です」


 手紙には『がんば!!』とだけ書かれていた。

 お前こそ頑張れよ。

 まだスタートラインだろうが。


 小前田おまえだの仕事場はライブハウスだ。

 見分けがつかないような女の子たちが踊って歌う。

 観客は少ない。

 昼間だものな。

 俺は後ろの方に立ってみていた。


 小前田おまえだ達のグループが出てきた。

 やはり歌って踊るが、俺の目から見てもヒットしそうにない。


 ヒットするのは大変だもの。

 曲が終わると、小前田おまえだが手を振って、来てくれてありがとうと言った。

 俺の方を見ていたような気がするのは気のせいだろうか。

 いいやきっと俺に言ったに違いない。


 別のグループの歌が何曲か終わって、帰ろうとすると、スーツの女の人に呼び止められた。


波久礼はぐれさんですよね?」

「そうだけど」


 ここでもか。


小前田おまえだがくじけないでとだけ伝えて欲しいと」

「お前もなと言ってたと伝えてくれ」


 二人の元気な姿が見れて少し活力が戻った気がする。

 彼女達との関係も変わらないのだな。


 武川たけかわさんと和銅わどうさんにも会いにいくか。

 武川たけかわさんのやっている道場はちょうど夕方で小学生の子供達か来ていた。


「おっ、兄ちゃん見学か?」

「お姉ちゃん目当てならやめとけよ」

「そうそう。昼間の先生はお爺ちゃんだから」

「夕方から夜はお姉ちゃんと年少組」


「ちょっと見るだけだよ」


 入口から、武川たけかわさんが子供に教えているのを見る。

 ちゃんと先生しているな。


 武川たけかわさんが俺に気づいたのか教えるのを中断して入口に来た。


「よう」


 俺は何となくバツが悪いなと思った。


「あなた馬鹿ね。なんでマスコミに反論しないの」

「いま色々と考えているんだ」

「いい、やられるだけじゃ駄目。攻撃しないことには勝利はないのよ」

「考えておくよ。ありがと」


 そう言って俺はその場を後にした。

 残る和銅わどうさんは自宅のガレージを改造した研究室だな。


 和銅わどうさんの家は一戸建てだ。

 ガレージの方に回り、扉を叩いた。


「何だ。波久礼はぐれ君ではないかね。心配してたのだぞ」

「こんなことになって、どうしたらいいか模索してる」

「ふむ、災難除けの石が役に立たなかったのではあるまいか」

「そうなんだよ」

「ずばり原因は一つだ。波久礼はぐれ君、前に話したが君の力は因果律を歪めるようなもの。それを阻止できるのなら敵も同じような能力だと考えられる。霊能力者ではない。もっと上の存在だ」


 そうか、一連の出来事は邪神が関与しているのか。

 だが、おかしい。

 とる手段が人間臭い。

 邪神が、人の評判を逆手に取った策略をするかな。


 しないような気がする。


「敵は邪神の一味だ。たぶん眷属だろう」

「ふむ、強敵だな。思うに波久礼はぐれ君の力は、信じる人が一人でもいれば効力を発揮するのではないかな」

「まあそうだな」

「だが、術の強度は信じている人がどれぐらいいるかで、変わってくるのではないかね」

「俺もそう思う。体の感覚でなんとなくそう感じる。だけど、何でそう思った?」


「神の在り方がそう思わせるのだよ。信じている人が一人でもいれば、力を発揮する。それと信じている人が多ければ多いほど強大になる」


 何となく認識はしてたが、信じるということが力になっているのだな。

 じゃあ、敵は俺を弱めようと今回のことを画策した。

 分かってみればなるほどと思う。


 だが、俺にどうしろと言うんだ。

 やり直せとでも言うのか。

 誰に対して怒りを向けているかさえ分からなくなった。

 そうだ、敵は邪神と眷属だ。

 世間じゃない。

 世間は邪神に惑わされただけだ。

 被害者とも言える。

 俺は立ち直るべきなのか。

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