第42話 陰陽師は立ち上がる

「スケルトン被害者のために募金をお願いします!」


 下は小学生、上は中学生ぐらいの子供達が声を張り上げていた。

 俺は居た堪れなくなって、一万円札を募金箱に入れた。


「ありがとうございます!」


 お礼の言葉が痛い。

 もっと俺が上手くやればスケルトン被害は少なくて済んだ。


「お兄さん、泣きそう。僕で良かったら話を聞くけど」


 年下に慰められてどうするんだ。


「ごめん、お兄さんは金儲けじゃなくって、借金してでも正義の味方を量産するべきだった」

「なんに対して謝っているのか分からないけど。僕たちがこうなったのはスケルトンのせいです。お兄さんのせいじゃありません」

「それでもだ。少し自覚が足りなかった」


「もしかして自衛隊の方ですか」

「違うけど、スケルトンを退治する責務を負う者だ」

「それなら、お兄さんが悩むことはないですよ。僕らはスケルトンと戦っている人の味方です。サインもらえますか。それを見て僕もそういう職業を目指したいと思います」


 色紙を出され迷った。

 何て書こう。

 断るべきか。

 これを書けばこの子はそれを見て頑張れるんだろうな。


 よし、書いてやる。


 『陰陽師 真中ふびと』、急急如律令、災難除けの模様と五芒星を書いた。

 不幸が訪れないように、「カタログスペック100%」を掛ける。

 色紙は光に包まれた。


「うわ、光った」

「この色紙は災難除けのお札だ」

「お兄さんの職業がわかりました。妖退治をする人ですね」

「まあな」

「凄いです。僕も修行したらなれますか」

「なれるさ。何年か修行して高校生ぐらいになったら、俺を訪ねて来い。そうすれば霊能力者になれる術を掛けてやる」

「約束ですよ。絶対です」


 こんなのもう、真中ふびとを復活させないといけないじゃないか。

 でないと俺は嘘つきになってしまう。

 少年の心を踏みにじるぐらいだったら、泥水を被るぐらいなんだ。


 俺は芦ヶ久保あしがくぼさんに電話を掛けた。


『真中ふびとを復活させようと思う』

『やっとですか』

『記者会見の場を整えてくれ』

『分かりました』


 そうだよ。

 全ては邪神が悪いんだ。

 俺が悪者になってどうする。


 少年から貰ったビラに書いてある団体の電話番号に掛ける。


『はい、スケルトン被害者の会です』

『1000千万寄付したい』

『ほんとですか』


『こういう会は横のつながりもあるよな』

『ええ』

『連絡を取りたい。紹介してくれるか』

『それは寄付して頂けるのならもちろん』



 いまいるのは、スケルトン被害者の会。


「いゃあ、ありがとうございます。1千万の振り込みを確認しました」

「やって欲しいのは真中ふびとを助けるために署名活動してほしい」


「あの真中ふびとですか。うちの会にも救われたという人がいますよ。直に救われたという人もいれば、奇病のため警察病院に入っていて助けられた人もいます」

「あの、一連の報道を見て悪感情はないんですか?」

「ネクターポーションは奇病の進みを抑えるそうじゃないですか。麻薬だなんてとんでもない。被害者の会は真中ふびと氏に感謝しています」


 俺のやっていたことは無駄じゃなかったのだな。


「それで他の団体を紹介してほしい」

「ここから近いのだと、ネクターポーションに救われた会ですね」


 場所を聞いて訪ねた。


「いらっしゃい。話は聞きました。ネクターポーションが麻薬だなんて言語道断です。私の家族の病気も治ったんですよ」

「署名活動して下さい」

「ええ、任せて下さい。何万人もの署名を集めてみせます」


 これで仕込みがひとつ終わった。


 父さんの伝手で研究員の人に会いに行く。


「突然すみません。ネクターポーションの成分分析と薬効の分析をお願いします」

「いいですよ。あれは興味深い研究材料です」

「それと、製薬会社を記者会見に呼びたい」

「私の専攻は成分分析ですが、製薬会社とのハイプはあります。ただ、製薬会社の得にならないと」

「ネクターポーションを製薬会社から売り出そうと思います。医師に処方させてです」

「なるほど、それなら絶対に食いつきますね」


 研究員と製薬会社の人が記者会見に来てくれることになった。

 これで二つ目。


 俺はダウジングして次のスケルトン出現の位置を割り出した。

 その場所のマップを作る。

 これで三つ目。


 記者会見は5日後に決まった。

 俺の停学の連絡は来ない。

 学校は俺が逮捕されたりしたら行動を起こすつもりのようだ。

 いじめの時の対応はずさんだったから、今回は慎重に動くつもりらしい。

 停学ぐらい構わない。

 退学だって構わないぐらいだ。

 命を賭けてスケルトン事件の収拾をする。

 そう決めた。

 もう迷わない。

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