第43話 陰陽師は記者会見する

 記者会見の日になった。

 俺が会場に入ると一斉にフラッシュが焚かれた。


 大勢来ているな。

 それだけスケルトン事件の影響が大きいのだろう。

 それに俺が逮捕されるかと今か今かと待っていると思う。

 逮捕した後じゃ、牢屋に入ってしまうから、写真は撮れないからな。


「私は司会を務めます、グリフォンプロダクションの芦ヶ久保あしがくぼです。では真中ふびとから一言」

「あれを」


 俺が指示するとスタッフが何万人分の署名を机の上に置いた。


「これが何か分かりますか。俺の復帰を願う署名です。俺のやり方が悪くないとは言いません。ですが救われた人もいる。パネルを」

 パネルが持って来られた。


「皆さん、お手持ちの資料と同じ物を拡大しました。ネクターポーションの成分分析となっています。ではふびとさん、どうぞ」

「俺が言いたいのは、もう逃げも隠れもしない。これから皆さんにネクターポーションを配るが、それを分析しようが何しようが構わない。結果、もし麻薬の成分が出たら、大いに訴えてくれ。俺は警察に自首しよう。ネクターポーションは今後薬として扱うようにする。興味ある製薬会社がいたら、グリフォンプロダクションに連絡をしてくれ。ネクターポーションについては以上だ」


「ではふびとによる陰陽道実演に移ります」


 俺は鏡を二枚向い合せにした。

 目覚まし時計を0時に合わせ、異世界の行き方が書いた、説明書きを手に持って。


「カタログスペック100%」


 鏡が異世界を映し出す。


「鏡は持って帰っても結構です。順番にどうぞ」


 俺は鏡の向きをずらした。

 鏡に映された映像は元の現実世界に戻る。


 最前列の端から、人が進み出て、鏡を受け取った。

 鏡の裏を確かめて、何やら呟いている。


「その鏡の注意事項ですが、午前0時に向い合せにすると異世界への扉が開かれます。その時に鏡の面に触ると帰って来れなくなるので注意をして下さい」


 マスコミなど行方不明になれば良いんだとちょっと考えてしまった。

 注意したんだから、異世界に行って帰れなくなっても自己責任だよな。


 異世界行きの鏡を次々に作り手渡した。


「ではお手持ちの資料をご覧ください。次にスケルトンが現れる場所が書いてあります。この情報はふびとによる占いの結果です。そのことを踏まえ報道して下さい。ではここからは質問タイムとします。手を挙げて下さい。発言の前には会社名とお名前をお願いします。では、はいどうぞ」


「ええ、△△新聞の入曽いりそと申します。ではさっそく。ネクターポーションの主成分は何ですか?」

「祈りです」


「祈りですか。それはどういった」

「薬師如来の祈りです」


「鏡について聞きます。良く出来た機械ではありませんか」

「実際に試して、異世界を見た後に割って貰っても構いません。好きにして下さい。さし上げた物ですから」


「反社会勢力との繋がりについてはどうですか?」

「オークションに出した物やオンラインショップの物に関しましては、どなたでも購入できるようになっています。はっきり言って規制することはできないでしょう。客の一人にすぎませんから」


「道義的な責任はないとおっしゃる」

「ええ、ないと思われます。オンラインショップの大手だって、クレジットカードがあればどなたでも買えてしまいます。そういう規制をしているサイトがありましたら教えて下さい。参考にします」


「では次の方」

「■■テレビの江古田えこだといいます。今まで隠れていたのは何でですか?」

「人のためになるように頑張ったのに報われなくて、ちょっと精神的に参ってました。それとやり方が悪かったと反省しておりました。雑音が入らない環境で考えたかったのかも知れません」


「どのようなやり方が不味いと感じられるのですか?」

「国の方に協力してことを進めるべきたったと思います。ですが、陰陽師という肩書は胡散臭いものを感じさせてしまいます。他に方法がなかったような気もします」


「ネクターポーションの悪評に関してはどうですか?」

「あれは天然水に祈りを込めた物で、それ以上でもそれ以下でもありません。天然水が気にくわないのなら飲まなくて結構です」


「では次の方」

「週刊★★の東長崎ひがしながさきです。ずばりお尋ねします。逮捕されると考えていますか?」

「それはありません。ネクターポーションの説明書きには天然水と書いてあります。なになにが治るとか。快感が得られるとかは書いてありません。奇跡が起こったなら、祈りが天に通じたのでしょう。霊感商法をやった記憶もないので、後ろめたく思う気持ちは一切ありません」


「世間を惑わしたという意味ではどうです?」

「信じるものを信じたいように信じればいいです。少しでも疑いや嫌悪感があるのなら、無視してくれて構いません。なんら法には触れていないと思います」


「ではこれで質問時間を終わりますと共に、記者会見を終わります。お忙しいところ、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 俺と芦ヶ久保あしがくぼさんは深々と頭を下げた。

 ふぅ、終わったな。


 製薬会社からは3社からオファーが来ていた。

 まずまずだろう。

 薬効成分がなくて薬として承認されるかは見ものだな。

 臨床研究のまま使用して行くのかも知れない。

 俺が考えることではないな。

 製薬会社にはもし扱うのなら、俺が紹介する患者には処方してくれるようにと言い添えた。

 これなら、藤沢ふじさわさん達が紹介する患者にも対応できるだろう。

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