第21話 元カノは真実を少し知る

Side:横瀬

 波久礼はぐれのことが気になって仕方ない。

 登校して教室に入ったのを見て、私も中に入った。


「何か用?」

「冷たいのね。恋人同士だった仲じゃない」


 そう言って何気なく近づく。

 そして、波久礼はぐれの前髪を払ったところ、手を掴まれた。


「何のつもりかな」


 彼の声はぞっとするほど声は冷たい。


「放して」

「金輪際、近寄るな。話掛けもするな」

「そうするわ」


 前髪を払って、隙間から見えたのは、普通の男の子だった。

 お世辞にもふびと様とは言えない。

 でも、ふびと様の面影があるように見えた。

 ふびと様に、できの悪い兄弟がいるとしたら、あんな感じかな。


 波久礼はぐれは一人っ子だと聞いている。

 間違いないはず。


 この間の辻陰陽師1とタイトルが付けられた動画を見る。

 やっぱり、波久礼はぐれと印象がどこか被る。


 教室の外から、波久礼はぐれを覗き見る。

 やっぱり似てる。

 顔は似て非なる者だけど、別人だと思われない感じがする。

 理由を考えて、思いついた。

 足運びが滑らかなのよ。

 滑るように動いている。

 まるで、能を見ているよう。


 何かそういう芸事をやってたのかな。

 いいえ、自殺未遂するまでは、そんなことはなかったかと思う。

 謎。


 私も馬鹿ね。

 ふびと様と波久礼はぐれを同一視するなんて。


「私、ふびと様のファンクラブ辞めようかな」


 自分のクラスに帰ると、ファンクラブの仲間の子がそう言ってきた。


「何かあったの」

「良いなと思っている人に告白されたの。でオッケーの返事をしちゃった」

「おめでとう」

「それで不思議なのは、ふびと様に貰った石が粉々になっていたの」


 役目を終えたってことかな。

 あの石に効力があるなんて。

 私の石を確かめてみたけど、別におかしいところはない。


「お告げなんじゃないの。ファンクラブは好きにしたら良いと思う。好きな人がいたって、別の人のファンをやっていても良いんじゃない。結婚してるけどアイドルが好きという人はいるわ」

「そうね。良く考えてみる」


 授業が終わり、放課後になってファンクラブのメンバーが集まると、半分が彼氏持ちになっていた。

 いくら私でもこれが変なのは分かる。

 ふびと様って本物の霊能力者?


 普段の波久礼はぐれの顔と声が違うのは、術を掛けているから。

 そんな馬鹿らしいことが頭に浮かんだ。


 でも自殺未遂するまでは、波久礼はぐれに霊能力がありそうなそぶりはなかった。

 波久礼はぐれを調べる必要がある。


 付き合っていた時の波久礼はぐれは漫画が好きな普通の高校生だった。

 色んなアルバイトをしたのが印象に残っているだけ。

 私が知らない波久礼はぐれの側面があるのかな。


 荒木あらきという、剣道部の生徒に会いに行った。


波久礼はぐれのことを教えて」

「奴の何が聞きたい?」

「あんた、波久礼はぐれに叩きのめされていたよね。前からあんなに強かったの?」

「知らん。前は殴られているだけだったから」

「何で虐められていたのか知ってる?」


「家族の仲が良かったのが、野神のがみさんの気に障ったのだろうな。ちらりとそう聞いた」

「何で先生に言わなかったのよ」

「分からないが、お前を庇ってたんだと思う。野神のがみさん、お前が好きだったから、レイプするつもりだった」

「えっ、初めて聞いたわ」

波久礼はぐれも浮かばれないな。お前を庇いきれなくなって自殺未遂したのに、その本人がのうのうと何も知らずに生きていたなんてな。もっとも波久礼はぐれは生き残って、死んだのは野神のがみさんだけど」


 そんなことがあっただなんて。


「嘘よ」

「俺も野神のがみさんがお前をレイプしようとしてたかは分からない。チャンスならいくらでもあったからな。彼氏だった波久礼はぐれに対する嫌がらせでそう言ったのかも知れない。今になってはどうでも良いことだ」


 波久礼はぐれ君が私を庇って虐めを受けてただなんて、ひとこと言ってくれれば、私がどうにかしたのに。

 彼に謝らないと。

 でも溝はできてしまった。

 もう謝っても仕方ないのかも知れない。

 野神のがみの奴は死んで可哀想と言われているけど、死んで当然だわ。

 この事実を広めたい。


 今度、匿名で生徒間のSNSに流してみようかしら。

 贖罪にはならないかも知れないけど、罪滅ぼしに良いかも。


 ふびと様が波久礼はぐれ君のことを素敵な人だと言っていたけど、本当にそうね。

 もしかしたら、ふびと様の正体は、波久礼はぐれ君かも知れない。

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