第18話 囲炉裏会席料理

お食事処には、囲炉裏がある。

この地区は囲炉裏会席料理が名物なんだけど、宿によっては一時廃れてしまったんだよね。

まあ、手間もコストも掛かるからね?

今では小規模な宿でも部屋食メインに成りつつある。

大手資本に呑まれた中規模な宿でもビュッフェ形式の方がわかり易く集客できるし、人手も掛からないし。


そこを、生き残りをかけて、囲炉裏を敢えて前面に打ち出すようにアドバイスしたのが僕なんだけどね。

素人の思いつきなんだけど。

その流れでさっき入った貸し切り露天風呂や、ネットの口コミを使った新規の若い優良顧客の開拓を始めたんだよね。

近隣の小規模な宿を取り込んで、纏めて一箇所で予約が受けられる様に工夫もして。

仕入れなんかも大手には敵わないから地場の仕入先から提携宿で一括で発注かけたり。

若くても『お金持ち』はたくさん居るし、外国人観光客向けに各国語の案内もネットに載せたりして。

外国人は、ここまでたどり着くのも大変だしね。

ターゲットを絞るために、宿泊料金を値上げしたりもした。

安宿には、それなりの顧客しか付かないからね。

と、まあ、『親の力』を全力で利用しながらなんだけど。

一昨年からこの地区の宿は、単月では黒字になる位には集客に成功しているからね。


その頃は、本気で僕がこの宿を引き継ごうと思ってたんだからね。

若女将と『一緒に』。


案内された席について、今日のお品書きを確認する。

二十歳前なので食前酒だけは省かれてはいるが、いつも通り以上の内容だね。

若女将は、案内後離れた後は戻ってこなかった。

まあ、良いけど。


前菜、湯葉刺しから始まって囲炉裏焼きまでゆったりと味わって食べ進める。

……………自分で焼いて、用意して。


「ほんっとに、美味しいわね?」


「気に入ってもらって、嬉しいよ。まあ、本当は若女将の給仕が付くんだけどね。来なかったね。」


囲炉裏に吊るした鍋から自分で汁をよそい、藤城さんに手渡す。

再建途上では、僕も休みの日は配膳や給仕を手伝っていたからお手のものだし。

飲み物も、厨房脇のストックを勝手に出してきた。


「来ないほうが、美味しく頂けそうなんだけど?」


「やっぱり、わかるんだね?」


「何がかな?」


「敢えて聞くのかな?」


「聞きたいな?後でゆっくりと。彼女の事も、貴方の事も。」


「わかった。後でゆっくりとね?」


振り向くと、後ろの離れた囲炉裏で若女将が付きっきりで給仕をしている。

余り気が進まないが、女将と改めて話し合わないといけないね。


今日の宿泊客は僕達を除いて5組だね。

外国人家族が一組か。

小さな金髪碧眼のこども男女が『オンセン、オンセン!』とはしゃいでいて、天使みたいで可愛い。


今の人員で対応出来る限度がこれぐらいなので、人を育てないとこれ以上は難しいだろうね。

若女将も、改めて『育て直さないと』いけないようだし。

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