第21話 連絡先を

大浴場の入口で綾本君と分かれてから、先程の事務室に早足で戻った。


『良かった、まだ居てくれた!』


わざとらしく音を立てながら入って、


「チョットだけ良いかしら?」


俯いていた若女将に話しかける。

驚いた表情の彼女に、


「良かったらだけど、連絡先交換しない?」


「……………何でかな?」


「ん〜、女将さんに言われたからじゃぁないけど、仲良くしてもらえればな〜と?」


「っ、だから何で!」


「貴方、私と同じ『匂い』がしたから?どうかな?」


訳がわからないという表情でスマホを出してきた若女将とラインの連絡先と電話番号を交換して、


「あのね、綾本君と私はまだ貴方が思うような関係では無いんだ。勿論そういう関係になりたくて今一緒にいるんだけどね。」


「…………………………」


「だから、綾本君を良く知ってるだろう貴方とは仲良くしたいの。じゃ、またね?」


「とっ、チョットまっ、」


呼び止める若女将を無視して駆け足で大浴場へ戻る途中で、女将さんに呼び止められた。


「あっ、女将さん、今若女将と連絡先交換しました!」


「あら、やることが早いわね。ありがとう。あの子、同年代の友達が少なくてね。同級生は皆此処を離れてしまったし。」


「いいえ、どういたしまして?こういう事は勢いでやらないといけませんから。私は彼女の知っている綾本君の事をもっと知りたいだけなんですけどね。」


「それでも、ありがとうございます。さっきの話の続きだけど、近いうちに招待しますから来てくださいね。」


「綾本君と一緒なら、お受けします。」


「あら、大丈夫よ。彼は毎週の様に来てるから。だから由美香は諦められなくて誤解するのよね。一緒に毎週来てもいいのよ?歓迎するわ。夏休みなんかはずう〜っと居たしね。お部屋も一緒で良いのよね?」


「あっ、その誤解する話、後で聞かせてください。あと、私、仲居さんの仕事に興味有ります!」


「ふふっ、大歓迎よ。では、ゆっくりしていってね?」


「ありがとうございます!」


女将さんと別れて、大浴場に入る前に若女将にラインスタンプで『よろしくね!』と送ったら、すかさず『激おこ』なスタンプが返ってきた。


スマホの電源を切りながら、なんとなく、彼女とは仲良くなれそうな気がした。

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