第17話 若女将

薄暗い中の階段を登り、身体が冷える前に宿の玄関をくぐる。


「お帰りなさいませ。お部屋へご案内させて頂きます。」


事務的な対応で、先程の不機嫌さを隠した『若女将』の案内でいつもの部屋へ。


「ありがとう。食事はでお願いね?」


「……………承知致しました。」


何か聞きたそうな彼女を無視して、藤城さんを促して部屋へ。

僕達が貸し切り露天風呂へ行ったのが不満なのだろう。

今この場に僕一人だけだったら、問い詰められて罵倒されている事だろう。

そう思える位、不機嫌だった。


「……………何?あれは!どういう事かな?」


そう言いながら部屋に入った藤城さんは、その場で呆けてしまった。


「……………なに?この部屋!」


「ん〜、露天風呂付きの特別室。」


「……………聞いてないんですけど?」


「言ってないからね?」


「……………此処、高級宿だよね?」


「歴史あって格式は高いけど、没落しかけた古い宿かな?温泉街の中心地がバイパス道路が出来てから移ってしまったからね。」


「……………綾本君と、どういう関係なのかな?」


長くなりそうだったので、お茶を淹れながら、


「女将が父の古い友人で、幼い頃から通ってるんだ。座ってくれるかな?」


「ん〜、さっきの女中さんは?あっ、お茶が美味しいっ!」


お茶を啜りながら尋ねる藤城さん。


「長くなるから、夕食の後でいいかな?まあ、若女将で、幼馴染だね。」


「……………ふ〜ん?」


まだ何か聞きたそうだったけど、『話すと長くなるんだからね?』。


「もうすぐ夕食だから、浴衣に着替えようか?」


着替えを促して、自分もさっさと着替える。


僕が目の前で着替えるのを見て恥ずかしそうにして躊躇っていたので、


「明るい所だと、恥ずかしいのかな?さっきはあんなに大胆だったのにね。良かったら、着替えさせてあげようか?」


ふざけて言ってみたら、


「是非、お願いします?」


恥ずかしそうに顔を赤らめて答えたところで、


「綾本様、食事の用意が整いました。お食事処までお願いします。」


扉の向こうから、『若女将』の呼び掛けが。


「ん〜、残念。藤城さんすぐに着替えようか。」


「っ、タイミング悪いわね。」


チョット声が大きい。


「うん、そうだね。まあ、夜は長いから後のお楽しみと言うことで。」


僕も、わざとらしく大きな声で応える。


着替えて廊下に出ると、扉の前で遣り取りを聞いていた若女将が僕を睨んできていたので、


「盗み聞きは良くないな。まだ食事の時間より少し早いよね。もう一度言うけど、僕達は今日は『お客様』だからね?」


「……………わかっております。此方へどうぞ。」


冷めた目で、冷たい声で、告げられた。

これは、後で『話し合い』が必要だね。

女将とは、何度も話し合ったんだけどな。

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