第19話 デザートの後に

結局デザートも出て来なかったので、仕方なく調理場の板長に声を掛けて、


「板長!柾木さん、勝手にデザート貰ってくよ?」


「えっ?あっ、坊っちゃんじゃぁないですか!若女将はどうしたんですか?」


「ご覧の通り、今日は全部セルフサービスみたいだね。柾木さんから後でこの件で女将に話があると伝えておいて貰えないかな?

あと、いつも言ってるけど坊っちゃんはやめてね。」


「アッシらにしてみれば、いつまでも坊っちゃんは坊っちゃんなんですけどね。あと、女将なんて、らしくないことを言わないでくださいよ?」


苦笑いしながら冷凍庫ケースから用意されていたデザートを二皿手にして席に戻った。

若女将は、最後まで一度も戻って来なかった。

今日のデザートは、普通かな。シャーベットとアイスクリームにチョコ掛けした一皿。


「ん〜、デザートも美味しいわね。」


「ありがとう。メニューには僕も関わってるから感想貰えると嬉しいな。

藤城さん、この後の風呂は部屋で済ます?大浴場行くかな?」


「ん〜、大浴場へ一緒に行ってからサロンで綾本君とイチャイチャしたいな?その後部屋の露天風呂で。勿論一緒にね!」


「……………わかった。」


「若女将に見せつけてあげようかと思ってる。」


「……………程々にね?」


二人で、わざとらしく、手を繋いで部屋へ戻ろうとしていると女将から声を掛けられた。


「坊っちゃん、いらっしゃい。今ちょっといいかな?」


「……………女将さんまで……………坊っちゃんはやめてくださいとお願いしましたよね?」


「あら、私達にとっては坊っちゃんは坊っちゃんですよ?あと、『女将さん』なんて、よそよそしいですね?いつも通りの『お母さん』と呼んでもらえるかしら。」


「…………………………皆で似たようなことを言わないで下さい。今日は友達とプライベートで来ているんですからケジメはつけましょう。」


「そうですね。板長からお話があると聞きました。そちらのお嬢さんもご一緒におねがいします。」


「……………藤城さん、どうする?」


「若女将の件でしたら、行きます。」


「そっか、ではお願いします。」


二人で手を繋いで女将の後について歩きながら、


「綾本君は、皆に『坊っちゃん』って呼ばれてるんだ?」


「……………藤城さんは普通に呼んでね?お願いだからね!」


「わかりました。お坊っちゃま?」


「ふふっ、お二人とも仲がよろしそうで、私は安心しました。」


「女将さん、まだ彼女には全部は話してないからそこまででお願いね?」


「承知しました。後で彼女にも『全部』お話して良いって事ですよね?」


「女将さん、是非全部教えて下さいっ!」


「……………みんなして僕を虐めないで下さいお願いだから!全部は駄目だからねっ!!全部はっ!!!」

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