第27話 ジャック君は大丈夫がから…多分…
「ジャック殿の行方は、残念ながら、依然として不明で…。」
カント王子が、マリア達とその脇に控えるキェルケゴール達を前に、いかにも残念そうな、悔しそうな表情で報告した。
彼の拉致の陰謀は、それに誘われたハイエルフの女名弓射手から連絡を受けた面々が、時を失してはと、取るものも取りあえず出発、彼の救出のために、自分達の従者にカント王子にことの次第を報告させたのである。慌てた、カント王子は、すぐに送れるだけの救出隊をすぐさま送りだし、その中には先に出発した女達の家臣達も加わっていた。しかし、全ては遅かった。何とか、彼らは脱出したものの、乗っていたドラゴンと共にいずこに行ったのか、全く、生死も不明という状態だった。
「大丈夫です。私達のジャック君が、死ぬはずは絶~対ありませんから。」
と賢者のマリアが、落ち着いた風で答えた。他の3人のマリア達も、心配そうな顔だったが、思いのほか、落ち着いているようだった。
「粛々と捜索を。しかし、慌てず、騒ぎすぎないように、ことを急いではなりません。忍耐を持って、彼の願い、警告、策を考えて、慎重に対応しましょう。」
それからしばらくの間、今後の方策、行動について話し合いがもたれた。
「勇者様達は、本当は心配でお心が弾けそうなのに…。魔王達も…。」
「それなのに、我々が狼狽えていてはいけないな、しっかりしないと。」
“あら。”ヘーゲル王女は、カント王子の顔を見て、今までにないものを感じた。剣も魔法の実力は、ある、指揮官、政治家としての力量はある男だったが、甘い整った顔と同様に、甘い、未熟なところを感じていたが、凄みというか、厳しさというか、精悍さというものを感じた。それはカント王子も同様だった。文武両道、賢明な王女ではあったが、花のような可愛らしい外見通りの弱々しいところがあったが、いまでは周囲を圧する威圧感を感じるようになっていた。それは、ここに集っていた王侯貴族達全員に共通していた。
「ジャック殿に託された理想、方策を無駄にしては、ならないさな。」
ミル卿が言った。
「しかし、ショクの宰相のシュウには、頭にきましたわ。心配する素振りでジャック殿の悪口を言い立てて…。美男子なのが、台無しですわ。」
「女をろうらくする魅了の魔法を使った、人の功績を盗む、卑怯者、他人の妻女を寝取ったとか…。」
延々と彼のジャックへの個人的中傷的な発言を言った。
「ジャック殿の提唱した連合、国家構想についても、言ってましたわ。例えば、各国間の流通、交流の制限の撤廃や法の制定を、従来の物流の破壊だ、自発的な道徳より冷徹な命令を強制することだとか言ってましたわ。」
「自分の国では、進めているくせにな。」
「よく知ってますわね。」
「ジャック殿と調べたのさ。」
「流石だな。」
「そのジャック殿の意思を無駄にできませんわ。」
と彼らが言い合っている時、
「わ、私がジャック君を助けに行くんだから!」
「ダメだったら…。ジャック君の言葉を忘れちゃダメ…私が行くから。」
「何言ってるのよ。私達がしっかりしてないと…だから、私が行く~!」
他のマリアを止めなが、自分が行こうとして争う3人マリア達を呆れながら見ていた賢者のマリアが、
「私達4人で当たらなければならないのよ、ジャック君も言ったでしょう!だから…私一人なら…。」
「だめー!あんたこそ何言ってるのよ!」
3人がハーモニックして叫んだ。そこまできて何とか、
「ジャック君を信じよう。そして、ジャック君の言ってたように!」
と落ちついたマリア達を見て、同様に慌てまくり合っていたキェルケゴール達も、本心を落ち着かせることができた。
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