第23話 最終決戦 3

「へ?」

 いつの間にか、真魔王達の本陣の真っ只中で、ジャックは走り回っていた。

“た、助けて~!ど、どうして~?”マリア達に、換えの聖剣、食事、回復薬などを手渡し、キェルケゴール達、ディドロ達をまとめていて、食事などの手配をして…、いたはずである。“それがどうして?”

「この邪魔者が、ちょこまかと!」

「小物風情が、我と闘おうとは片腹痛いわ!」

「卑怯な手ばかり使いおって、これで終わりだ!」

「ええい、いい加減に観念なさい!」

「こ、このしぶとい奴ね。早く死になさい!」

「もう邪魔はさせんぞ!」

「いい加減になさい!」

 攻撃を必死に避けながら、ほとんど効かない攻撃を放ちながら、逃げ回るのが必死だった、ジャックは。

「ジャック君。無理しないで!」

「危ない、ジャック君!」

「今、いくからね、ジャック君!」

「もう、よくやったわ、もう十分よ!」

 マリア達は、万全な形で真魔王との戦いに入っていた。

「ジャック殿が、一人突破口を作ったぞ、遅れをとるな!」

「ジャック様。今、ご助成しますわ!」

「ジャック様。今行きます!」

「ジャック殿。ともに戦います!」

とキェルケゴール達が、雄叫びを上げて突っ込んで言った。

 その頃、前線では、

「竜虎の陣!」

 一人の長身の若い、美丈夫な男が、軍配を翻していた。

「両将軍閣下、頼みましたぞ。皆の方、補佐を頼みますぞ!」

 2人の猛将を中心にした勇猛な将兵と補佐するように108の豪傑達が、整然とした陣形で進み、巧みな動きで上位魔族達の軍に優位に戦いを進めていた。

「わが国軍の働きに、各国軍は…。」

と脇に控える主に向かって語りかけた時、

「ジャック殿が、単身、真魔王の本陣の真ん中に斬り込んだと?皆、聞いたか?我らも負けてはおれんぞ!」

「ジャック殿が、勇者様を助けて、そこまでやっておられるとは?もう、我らの勝利は、間近ですわ!」

「ジャック殿が、そこまで敵を追い込んでいるとは!我らも、ジャック殿に続くぞ!」

「ジャック様とともに、勇者様と勝利に加わりましょう!」

とカント王子達が叫ぶと、疲れ切った表情を見せていた将兵の顔がに気力が蘇ってくるのが分かった。全軍が凄い勢いで前進し始めた。かの軍の活躍などは、霞むようだった。

「く、虚が実に勝つとは…。陛下に…ジャックなる、悪党は許せん!」

 ギリギリと歯ぎしりするのを、彼の主は宥めるのだった。

 ついに、最後の真魔王が倒れた。聖女のマリアが、とどめをさそうとした。が、僅かに顔を上げた。人間型だが、巨漢で恐ろしい形相の男の上位魔族だったが、

「勇者よ。我にとどめをさす名誉は、そのジャックとかいうやつに与えてやってくれないか?」

と苦しい息の下から言った。

「分かったわ。でも、おかしなことはさせないからね。」

と聖女のマリアが答えた。他の3人のマリアも立ち合うように、囲んだ。

「すまない。」

「お前のような非力な人間に、我は負けた。それを名誉に思え。そうすれば、我も浮かばれるし、満足だ。それから、我から贈り物というか、頼みというかだが…。」

 彼は、彼に囁き、あるものを手渡した。

 戦いは、終わった。真の勇者達、4人のマリア達は、全ての真魔王とその幹部達の全てを倒した。上位魔族の軍は壊滅した。

 人間・亜人・魔族が、その勝利を祝い、全軍を上げた祝宴で平和の到来を感じた。その勝利の報が伝わった各地でも、祝いの宴が開かれ、誰もが平和の到来を夢みた。

 それから、一カ月もたたないうちに、ジャックはとらわれ、全裸で、恥ずかしい姿を晒していた。

“お姉ちゃん達は大丈夫だろうか?妹達も…。”と頭に浮かんだ。

「僕は絶対死なない、大丈夫だから、冷静に、慎重に動いて…。」

と最後に、口を酸っぱくして話したことを思い出した。カント王子達やディドロ達にも、頼んであった。全ての真実と、対応策についてもお願いした。“大丈夫…だ。”

 そして、“俺は…全然大丈夫じゃないよー!死にたくない!好ましじゃ、惨殺されるよ~、だ、誰か助けてー!”

「ささやかな領主としての地位、領地を得て、静かな生活を送りたいと望むだけです。」

「できれば、新しい連合に協力して欲しいのだが…。」

「必要であれば、一兵卒として、はせ参じます。」

「そうか…、さすがジャック殿だ。」

「無欲過ぎますよ。でも、それだからこそ、ジャック様…。」

 カント王子達にも、そう言ったのは、本心でもあるが、同時に保身のためだった。

 ジャックは、カント王子達にも、マリア達のこと、魔族との共存のこと、そして懸念していることとその対策案を話した。

「本当に君は…だからこそ、勇者様達が君を頼りにしたんだなあ…。」

「勇者様達や魔王様達が羨ましいですわ…。」

「そこまで考えていたとは…。深謀遠慮とは…。」

 彼らは、一様に感慨深い表情を浮かべて考えこんだ。

“王子様達のとこは信じたいが…あ、そうだ!この人達もガードしておかねば…でも…気休めかも…だけど…。”ディドロ、モンテスキュー夫妻(その直前に結婚式を挙げていた、もちろんジャックは奮発したお祝いをあげた)達にも、彼にまとわりつつく聖女、剣聖などにも、話して、あとを託した。

「分かったよ。でも、君も気をつけろよ。君は、相手にとっても邪魔な存在なんだから。」

「そう。つまらない奴らの恨みも多いけど…あなたは自分のことも心配してよ。」

“心配してるけどな…。”その時は、そう思っていたが。


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