第22話 最終決戦2

 左右の陣地からの攻勢、じりじりと陣地を前進させながら、中央の動きは、それと比べて消極的だった。それが気が付くと、包囲されかかっている。後方からは、度々、勇者達の率いる部隊の急襲を受けて、多大な損害を出している。

 そして、その中央が突然動き出した。後ろに、身を潜めている部隊の気配が感じられる。中央の攻勢は囮、後方からの勇者達が本命。それはありきたり過ぎる。魔族軍は、それに乗ったと見せかけた策を取った。後方への守りも備えたが、一気に真七魔王を陣頭指揮にたって一大攻勢を逆にしかけた。対勇者達への備え、罠、伏兵を十二分以上にしかけた。その策どおりに、勇者達が先頭にいた。

 が、その策を予想しての攻勢、勇者達を先頭とした攻勢だった。この作戦は、ジャックや勇者達ではない者の作戦だった。それを利用して、勇者達との偵察結果から、現場で変更を加えた、というよりは、相手の策への対抗策を持った上で勇者達は進んだのである、ジャックの主導での対策が考案、準備されていた。

 いたるところに罠、伏兵が配され、また、一旦退いた部隊が右から、左から突撃してくる巧みな動きなど、それ全ては勇者達を疲労させるためである。戦い続けている勇者達と対照的に、七真魔王とその親衛隊は、戦いの前面に出ることなく、本陣に控え、力を温存していた。勇者達さえ倒せば、確実に勝利できるからである。

 だからこそ、今までの勇者達の部隊に、疲れていない将兵の部隊を、新たなる精鋭達、かつてなら勇者達と呼ばれる者達を多く加え、各種兵器も揃えた、上位魔族が見たことのない部隊を編成してあったのだ。全ては、勇者マリア達を助けるためである。

 そのどちらの戦略が成功するかが、全てを決するのである。

「勇者様…マリア様~!」

「う!しまった。」

「でかしたジャックく~ん!」

 真魔王の一人が、格闘のマリアに放った渾身の魔法攻撃が、僅かに、僅かに、本当にほんの僅かにそれた。そのため、彼女の放った魔法攻撃がまともに当たり、続けて彼女の拳と蹴りがきまって、彼は吹っ飛んだ。

「真魔王様!」

 自分の主への援護の集中しての魔法攻撃の発動が遅れ、主は武器のマリアの斬撃に血を噴き出して、膝をおり、彼らにも彼女の魔法攻撃が炸裂し、陣形が完全に崩れてしまった。ジャックの大弓から、魔法を纏った矢の連射で、僅かに、ほんの僅かに動揺した結果だった。

「ジャック君!グッジョブ!」

「うわ~!」

 聖女のマリアの魔法防御結界を真魔王と彼の親衛隊が、一斉に魔法攻撃を放って、砕こうとしたが、ほ~んの僅かに乱れ、破壊するどころか、弾き返され、自分達に返ってきてしまった。ジャックが魔法を込めた手裏剣を次々投げて、多少、本当は微妙に、中和させたからだった。

「ジャック君、ナイスアシストよ~ん!」

「こ、これは…。」

 魔族軍の魔法防御結界が崩壊した。賢者のマリアの魔法攻撃は、完全にそれを崩壊させたのだ。さすがに、しばらくは防御結界を復活はできない。人間・亜人・魔族連合軍の攻撃が、一方的に降り注ぐことになる。ジャックが、目潰しや火矢、薫蒸玉を投げ込みあるいは秘かに置いていたのを、発動させた結果である。

「さすがです、ジャック君!」

 その度に、彼の嫌がらせに気がついた上位魔族の親衛隊から、彼は戦いつつも、脱兎の如く、ゴキブリのように、必死に逃げるのだった。それがまた、彼らの陣形を、兵力の集中をほんの僅かに、本当に些細な程度、乱し、狂わせたのである。

「ジャック殿が、敵の将と一騎打ちして、我らを救わんとしておるぞ!ジャック殿を犬死にさせるな!」

 キェルケゴールが、叫び、自分の家臣達を鼓舞した。彼らも奮い立った。

「我らの意地を見せてやろう!」

「ジャック様に続け!」

 ジャックは、苦戦中のキェルケゴールとその親衛隊を助けるため、相手の指揮官に“嫌がらせ”のような攻撃をし、怒り狂った彼と側近から逃げ回っていた。

「うわ?」

となんの弾みか、その指揮官が馬から落ちてしまった。すかさず、一太刀をいれたのがジャックだった。当たり所がよかったのか、彼は血を噴き出して倒れた。これで、上位魔族の側は崩れて、及び腰になり、キェルケゴールの軍は、

「ジャック殿が敵将を倒したぞ!」

「上位魔族など、何するものぞ!」

と勢いづいた。

「ええい、この下民が!」

「人間の下についた女が、王族気取りか!」

「うわー!」

「な、何をする?や、止めろー!」

 ジャックが、2人の戦っている中に割り込み、相手の部下の援護をかいくぐって、何度も剣を叩きつけ、その度に態勢を崩し劣勢になってゆく。

「ぐわっ!」

「ジャック様!ありがとうございます!とどめを!」 

 ショウペンハウエルに言われるまま、剣に魔力を注ぎ込んで、正剣、聖剣ではない、ただの名工による名剣、ムラマサで脳天を突き刺す。

「ジャック様が、暗黒騎士として名高い…を討ち取ったぞ!」

とショウペンハウエル王女が、叫んび、周囲が響めいた。

「ジャック様。ご助成、かたじけない!」

「卑怯者!一騎打ちと言ったではないか!」

「何が一騎打ちだ!多勢に無勢では、なかったか、こちらは。ジャック様一人に、勝てない不甲斐ない部下を持った未熟さを知るがいい!」

 一騎打ちと言いながら、その家臣達をも相手にすることになり、防戦一方だったニーチェが、しだいに有利に立ち始めていたのは、相手の家臣達の中に斬り込み、かく乱した上に、ニーチェと対人した上位魔族騎士に手裏剣を投げ、ほんの一瞬、彼女の動きを止めたからだ、家臣達の加勢がなくなったこととそのことに動揺したことが大きかったのだが。数が劣勢で、近づけなかったニーチェの部下たちも、それに力を得て、押し返すどころか、圧倒さえし始めた。

「ジャック様、一人で奴らを倒す名誉を、与えるな!」

 ニーチェの叫びに、彼女の部下たちは奮い立った。“は、早く来てくれよ~、押し返して~。この儘だとやられるやー!”必死にたまに応戦して、一矢報いては、ゴキブリのように逃げ回る彼だった、ただ、もう一回、ニーチェの援護のための小柄を投げた。

「私が戦えないと侮ったかー!」

とヤスパースが、襲いかかってきた上位魔族の剣を受け止めると、

「お前達、こいつを殺せ!」

と相手の上位魔族女騎士は叫んだが、誰も来なかった。

「ジャック様お一人で、お前の部下達は抑えられているわよ。ほほ…。」

「な、なんだって~?」

 ヤスパースの挑発的な笑い声に相手はほんの少しばかり狼狽えた。確かに、今の今まで、自分とともに彼女と戦っていた家臣達が、彼女の護衛達と戦っていた、自分を守るために。彼らを抑えていたはずの家臣達が混乱しているのが視界に入った。

「戦う参謀本部を、馬鹿におしでないよ!」

 そのほんの少しの動揺で生じたほんの僅かな隙をつかれ、ヤスパースの槍と魔法攻撃に体を突き破ろられた。

「ぐわー!」

 

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